藤原 伊織

1948年大阪生まれ。1973年東京大学文学部仏文科卒。電通入社。
1977年「踊りつかれて」で第4回野生時代新人文学賞佳作、
1985年「ダックスフントのワープ」で第9回すばる文学賞受賞。
1995年「テロリストのパラソル」で第41回江戸川乱歩賞、翌年、第114回直木賞のダブル受賞。


ダナエ


藤原 伊織


文芸春秋





2007/2/13

2007/1/15 発行


 「ダナエ」、「まぼろしの虹」、「水母(くらげ)」の三編収録。


 美しいある場面、それを浮き上がらせるための物語。

ダナエはギリシャ神話に出てくる有名な英雄ペルセウスの母で、祖父殺しで知られている。レンブラントが描いたダナエの絵が切り裂かれ硫酸をかけられた事を真似たような事件が豊明画廊で起きた。宇佐美が義父を描いた肖像画だ。宇佐美はレンブラントがらみで妻の前夫の子の可能性を考え調べ始めるが・・・・・。
 代わりに展示した静物画にまつわるエピソードと絵を見て受ける感動を静かに味わう作品。

 連れ子同士の結婚で血のつながらない姉・佐紀と弟浩平は両親の離婚を心配している。母の不倫の相手を調べていた浩平は相手の男の愛人とその息子と会う機会を持った。不思議な因縁だが、義理を通す男の生き様と、瞬間の美しさを描いている。

 元妻の『くらげ』をモチーフにした現代アート、インスタレーションをみた広告代理店の麻生和夫は、妻がトラウマの為、仕事を離れる危機にあることを知る。妻のために腕のいい映像オペレーターに無理強いし、合成写真を作らせ・・・・・。

 大手広告代理店にいた作者のよく知る世界を題材にした短編。いつものハードボイルドとは雰囲気が違う気がするが、主人公は多くを語らず、本質が優しく行動が厳しい、これらの登場人物も存在がハードボイルドということだろうか。
 



ひまわりの祝祭


藤原 伊織

講談社




2006/8/29

主人公は過去に何があったか、世間と途絶し、労働のない、つるつるのプラスチックみたいな平板な生活をし、協調性、順応性、社交性などに欠け、幼児的性格とまわりからいわれている、30歳を過ぎたばかりの男秋山秋二。同居人はネズミ。乱れた生活を送っている秋山だが、いつもの主人公ののんだくれとは違って甘い菓子とホットミルクを愛好している。
 突然、かつての職場の上司がやってきて500万を捨てるのを手伝ってくれといわれ出かけていった賭博場で数年前に自殺した妻とそっくりの若い女に出会う。それが、事件の始まり。
 秋山は高校の美術部時代、いくつもの賞を受賞し天才少年といわれたが、美大では油彩からデザイン科に変更しデザインプロダクションに就職した。妻は美大を出て学芸員になった。ゴッホが好きで研究を積み、未発見のひまわりの絵があると信じていた。
 幻のひまわりの絵の所有権を持つ秋山と亡妻の弟は、絵の所在をめぐって、やくざを含む二つのグループからねらわれている。
 原田という洗練された風体と物腰のカジノにいたマネージャーはIQ170、頭がよく格闘技も強く、かっこよすぎのホモでなかなか面白い。
 妻とひまわりの関係、かつての会社の社長や上司、何人もが過去につながりがあり、謎を解いていくに従い妻の死の真相も。

 原田が高校時代にベニヤでキャンバスを作り面白いマチエールをつくるテクニックや、印象派の画家についての薀蓄などや、広告代理店かデザインプロダクションなどの世界を少し見られるのも私には興味深い。だから藤原伊織を好きなのかもしれない。引き込まれて読み終えた。



蚊トンボ
白鬚の冒険



藤原 伊織


講談社




2006/4/18


 ある日突然、倉沢達夫の頭の中に蚊トンボが侵入した。蚊トンボは人間の身体能力を瞬間的に最大限まで引き出すことができる謎の昆虫だ。隣に住むデイトレーダーの黒木と知り合ったことから闇社会の怪しい者たちとの関わりが始まる。
 
蚊トンボは白鬚と名乗り、達夫とシラヒゲの会話は軽口でおかしい。達夫は古風でまっすぐな好人物の配管工、ビール好きの施主の娘と知り合ったり、ヤクザと関わったりするが、シラヒゲからは不思慮で無鉄砲と言われる。

 周りの人間たちは、皆なかなか味がある。ビール好きのきれいなお姉さん八木沼真紀は、すごい飲みっぷり。私も好きな方だがこんなには飲まないぞと思う。そして、人生の夕暮れ時を迎えて様々に考える男たち、インテリヤクザの瀬川、全身に刺青のある親方、隣人の黒木など、はみだし者だが義理にあつく、ある意味、魅力がある。
 
 
達夫はインターネットと株取引と暴力団のごたごたに巻き込まれ、偏執狂的なPCスペシャリスト、カイバラとの死闘をするのだが、恐れず、ためらわず、白鬚のおかげで超人的だからでもあるが、潔い。
 蚊トンボは目も耳も記憶も優れている何でもありの都合のいい不思議な設定だが違和感なく読めてしまった。白鬚との間には不思議な友情(?)か連帯感、一体感が生まれ、とても面白く読めたのに、最後は納得がいかなかったなあ。
 



てのひらの闇

藤原 伊織


文芸春秋





23006/2/17
 
 酔っ払いの中年を書くのが上手い。著者そのものみたいだ。
 
 飲料会社宣伝部の課長堀江は会長から呼び出され、あるビデオテープについて意見を求められた。その後、会長は自殺してしまった。堀江は、なぜ会長が自殺したかを追及し始める。
 堀江の部下には仕事だけでなく、酔いつぶれても面倒を見てくれる有能な既婚女性がいる。関係は微妙。
 他にもスナック経営のユニークな姉弟がいて姉のナミちゃんの暴走バイクに乗せられ怖い思いをしたりする。いつも作品には、個性が強くはっきりものをいう女性が出てきて、会話のやりとりが面白く、楽しみの一つ。そしてエロ場面のないのがいい。

 テープの中に写っていた、マンションから転落する子供の母親、助けた男性、30年前に堀江がタイケイ飲料に入社するきっかけになった女性、入社を勧めてくれた自殺した現会長らの周りを調べ、飲料会社のリストラ、政界へ出る為の人気取りとCMなどがからまり、複雑な人間関係が少しずつ見えてくる。
 堀江の過去、謎の生い立ちや左手のひどいやけど痕も次第に明らかになるけれど、もし、生い立ちを特殊なものにしなかったらこの作品は成り立たなかったんだろうか、と、ふと思った。
 堀江はサラリーマンだが、チンピラを相手に立ち回りをしたり、組長を車に乗せ、足を銃で撃ったり・・・・。
 会話や、説明の中に同世代だなあ、と感じる言葉があるので好きなのかもしれない。
 



シリウスの道

藤原 伊織

文芸春秋



2005/10/17
 
 東京の大手広告代理店の営業部副部長・辰村祐介は子供のころ大阪で育ち、明子、勝哉という二人の幼馴染がいた。この三人の間には、決して人には言えない、ある秘密があった。三人は連絡をとりあうこともなく、別々の人生を歩んできた。明子のもとに、あの秘密をもとにした脅迫状が届く!離ればなれになった3人が25年前の「秘密」に操られ、吸い寄せられるように、運命の渦に巻き込まれる

 女性上司の立花英子は、決断が早く、頭がよく、美人でもありステキだし、辰村は上役にもはっきり物が言える男で仕事ができる。立花との会話の妙は楽しめる。辰村の下には、途中入社の新人がいるのだが、この2人のやりとりもいいのだ。新人が先輩を見習いつつ、上司も長所を見出して伸ばしている教育ぶりがいい。

 
各社競合のプレゼンテーションに向けて、製作、マーケティング、PR,イベントプロデュース、そして営業らで編成されたスタッフの奮闘振りを興味深く読んだ。さすがに、著者が知悉する広告業界の内幕の描写は生き生きとして、魅力ある企業小説である。そして、ミステリーでもあるがちょっと複雑になりすぎた感じもあるかな。
 出てくる人物には魅力があり、読後も爽快感がある。



テロリストのパラソル
藤原 伊織
講談社


1998/4/29

 アル中バーテンダーの島村は、過去を隠し二十年以上もひっそり暮らしてきたが、新宿中央公園の爆弾テロに遭遇してから生活が急転する。ヤクザの浅井、爆発で死んだ昔の恋人の娘・塔子らが次々と店を訪れた。知らぬ間に巻き込まれ犯人を捜すことになった男が見た真実とは…。


 学生運動・全共闘時代の話が出るところで、不思議に印象に残っているのは、「ドイツ語は、しゃべれなくても読めるんだ」という言葉があったと思う。あの時代は、今とちがって第二外国語はドイツ語だけだったな、と。




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