読書日誌
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その他の紹介&感想(できるだけ短くするように心がけています



告白

湊 かなえ
双葉社

2010/2/6
2008/8/10 発行


新世界より
上・下

貴志 祐介
講談社

2010/2/1
2008/1/23 発行
SFマガジンが出している「SFが読みたい!」の2008年の第一位。長いが一気に読んでしまう。


日本語が亡びるとき
英語の世紀の中で

水村 美苗
筑摩書房

2010/1/29
2008/10/31 発行


ビッグブラザーを撃て!
長編謀略小説
笹本 稜平


2009/12/30
2003/9/20 発行
 一人の会社員が巨大組織の陰謀に立ち向かう!ソフト開発会社社員・石黒悠太は、目の前で変死を遂げた友人から、1枚のディスクを託された。中には、スーパーコンピュータを駆使しても解読に50年はかかる、世界最強の暗号ソフトが。国際的謀略組織(ビッグブラザー)の魔手が、悠太と家族に迫る―ー。

 阿由葉稜(あゆばりょう)名義で『暗号ーーBACK-DOOR』を書いたのが実質デビュー。改題したのが本書。
 『時の渚』で18回サントリーミステリー大賞及び読者賞をダブル受賞した。

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 初めて読んですごく面白かった。他の作品と違ってこれは、コンピューター、セキュリティ、アルゴリズムなどなど・・・・難しくてよくは分からないものの、非情に関心のある事が題材になっている。
著者は、理解して書いているのかなあ?すごい!

コンピューターの世界は、裏で操作を出来るようにすると、世界を牛耳ることが出来る。セキュリティソフトに、バックドアをつけておくと、世界を動かしたい者が自由に入ってプログラムを書き換えられる。とんでもないことだが、今も、そうなっているのかも知れないと思うと、怖い。

 

魔術師
マーリンの夢


Merlin Dreams
ピーター・ディキンスン
Peter Dickinson
山本 史郎 訳
原書房

2009/12/24
2000/7/20 発行
すべての伝説は彼が見た夢かもしれない-アーサー王伝説に登場する謎の魔術師マーリンが岩の下に封じ込められ、深い眠りの中で見る夢の物語。アラン・リーの美しい挿絵と織りなすケルト幻想物語。


バレエ・メカニック
津原 泰水
早川書房


2009/12/20

2009/9/10 発行


女子大生会計士の事件簿
山田 真哉
英治出版

2009/10/2
2002/12/16 発行


虎と月

柳 広司
理論社

2009/9/21
2009/2/ 発行
父は虎になった―ー
そんなこと、簡単に信じられるものではない。
ぼくだってそうだった。
しかし、父に会った、という人物からもらった手紙には、父がその場で詠ったという一篇の漠詩が書かれていた。
その詩(うた)には、虎になった人間にしかわかりえない、悲蒲な心の叫びがこめられていた。
父の血をひくぼ<も、いつかそうなってしまうのだろうか。
それはちょっと勘弁してほしい。
父がどうして虎になったのかを知りたい。
それが波欄万丈にして、不思議な旅の始まりだった……。
言葉の魔術師・柳広司が放つ
中島敦『山月記』に想を得た、寄想天外な変身譚(メタモルフオセス)。(カバーより)

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司馬遼太郎と東京裁判

福井 雄三

主婦の友社



2009/6/30

2006/8/15 発行
「坂の上の雲」に隠された歴史の真実
と内容はほとんど同じ。

司馬作品には面白くするためのフィクションがいっばい組み込まれてあって、(小説だからあたりまえのことではあるが)

 たとえば『竜馬がゆく』では、竜馬は高杉晋作と会って上海土産のピストルまでもらっている。ところが『世に棲む日日』では、伊藤俊輔が「坂本竜馬という土佐人が来ていますが会いますか」と言ったら、高杉晋作が「会うには及ぶまい」と答え、会っていない。(まるで反対だ、歴史的事実だと思い込んで読んでいたら、大きな間違いを起こしてしまう)

また、河井継之助が短編の『英雄児』では藩に滅亡をもたらしたとんでもない奴でありながら、長編の『峠』では最後まで戦った政略的な天才として描かれている。

司馬さんの文体には「この人物の面白さは」とか「この時代の奇妙さは」とか「この国家の不思議さは」といった、癖がある。その影響か、歴史に詳しくなった気になり、自分がずいぶん賢くなったような気がする。

話のつくりが面白すぎて、小説のフィクションが史実だと勘違いされる恐ろしさがあるのではないかと、著者は危惧している。

私はまんまとフィクションを史実だと勘違いして読んできたようだ。
他の作家より司馬氏が好きだったのは、フィクションではなく史実を書いているはずだという錯覚によるものだったのかと、気付かされた。


日本語は天才である
柳瀬 尚紀
新潮社

2009/6/30

2007/2/25 発行
漢字が優れたものだと言うことは前からわかっていたが、それでも本書を読んで驚くことが多かった。

「日本語にあてた漢字を字音で読む」――古い日本語であるが今も使われている日本語に「みもの」がある。和語という言い方もできるもの。これに漢字をあてると「見物」。次にこれを字音で読むと、「ケンブヅ」になる。
同じく古い日本語に「ひごと」がある。もっと古くは「ひのこと」と言った。「ひごと」に漢字をあてると「火事」。これを字音で読むと「カジ」になる。日本製の漢語だ。
〜〜ああ、そういうことだったのかと驚く。

日本語の面白さは――「おひや」を頼めば水がくる。「ひや」を頼めば酒がくる。「にぎり」と「おにぎり」は別物である。ーーというのもある。

漢字の本家中国に何百と言う和製漢語が逆輸入されて使われているのにも驚いた。

他にも、日本語の優秀さ、著者は天才と言っているが、さまざまある。いろは歌もその一つ。
日本語を再認識できて面白かった。


時が滲む朝
楊 逸
ヤン・イー
文芸春秋

2009/6/27
2008/7/10 発行

日本人ではないので、難しい言葉や言い回しが無くてよみやすい。

天安門事件の頃から北京五輪前夜までの約20年間。その間の文化大革命や天安門事件、香港返還などの中国現代史が走馬灯のように書き込まれている。
大学に合格後は学問に燃え、国を変える大志を抱く梁浩遠と謝志強。2人の中国人大学生の成長を通して中国民主化勢力の青春と挫折を描く。

「同じ大学に入ろうね。卒業したら、帰ってきて、この高校の先生になって、僕たちで、農村の子どもを国のエリートに育てよう」
「若い自分達が国を作っていくんだそのためにも勉強をしっかりしないと」
・・・・こういう姿は
かつての日本の学生運動を思い出させる。


坂の上の雲」に隠された
歴史の真実


福井 雄三

主婦の友社



2009/5/21

2007/12/20 発行

 P21「坂の上の雲」のクライマックスの一つ、旅順攻防戦。司馬氏は乃木将軍をはじめ第三軍司令部を無能呼ばわりするが、要塞攻撃を世界史的視野から鳥瞰すれば、記述とは異なるのではないかと提起する。
 P32登場人物の役割、構成面から見てほとんど司馬氏の創作でフィクションで乃木無能説は全くの誤りであると言い切る。

 乃木希典と伊地知幸介をまるで馬鹿の骨頂であるかのようにこきおろし、児玉源太郎をあたかも神の如くに賛美している。善玉と悪玉の役割をはっきり区別して描いている。

 私自身、「坂の〜」を読んで、全く司馬氏の思惑にはまって、「なぜいつまでも無能な乃木に指揮をさせたのだろう、邪魔なだけの伊地知を排除しないのだろう」と思い込んでいた。本書を読むまで、疑問も感じなかった。

 最近、ロシアから文書が公開されて日露戦争時の事実が明るみになって、作家の空想の産物だったものが、明らかになりつつあるらしい。

 著者が心配するのは、国民的作家が書いたものは創作であろうと歴史として認識されてしまう可能性があるので、事実をはっきりさせなければいけないとのことだ。
テレビで放映されるとなお一層記憶されてしまう。正しい歴史を知る事が必要なのだ。

 「司馬史観」なるものには、様々な問題が内包されている。その中の最大の物は、旅順攻防戦とノモンハン事件だという。
 


凍った地球

スノーボールアース

生命進化の物語

田近 英一

新潮社



2009/4/21

2009/1/25 発行
 全球凍結は、現在の穏やかな気候と生命進化に深く関わっている。
 かつて全地球は、数百万年にわたり凍りついていた可能性が強い。赤道付
近にも、南極のような氷床があった証拠が見つかっている。生物はどう生き延ぴたのか?零下50度以下の厳寒はいかにして温められたのか?大気の変化、温暖化プロセス、プレートテクトニクス、太陽の影響、生物進化。さまざまなファクターから、ガリレオ以来の衝撃的仮説が証明されていく。

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 火山活動による二酸化炭素の供給が現在の約10分の1以下になると、地球は全球凍結を避けられない。
 太陽からのエネルギーの増加によって温暖化が進めば南極やグリーンランドの氷床が全部融け、地球は表面に氷床が全く存在しない「無凍結状態」になる。1億年位前の姿だ。逆に寒冷化が極端に進んだら「全球凍結状態」になる。
 現在は、両者の中間の「部分凍結状態」であって、無凍結に比べれば、寒冷な状態といえるらしい。

 地球は長く平衡状態にあり、行き過ぎの無いようフィードバックが働いている。平衡が壊れたらどうなるかはわからないそうで、不安になる。

 『地球はいま、新生代後期氷河時代のまっただなかにある。氷期と間氷期が約一〇万年の周期で繰り返しており、ほんの一万年前までは寒冷な氷期だった。その後、地球は温暖な間氷期となり、人類は文明を繁栄させてきた。しかし、あと数千年から一万年くらいのうちに、またふたたび氷期が訪れることはほぼ確実であろう。』

 氷期が来ることが確実であるのなら、今、こんなに温暖化について騒いでいるのは不思議な気がする。


 実録 川上貞奴
−世界を翔けた炎の女−

江崎 惇

新人物往来社




2008/12/2


昭和60年3/1 発行
  〔著者略歴〕
 江崎惇(えざき・あつし)
 1915年・静岡県生れ。沼津中学(現沼津東高)を経て慶犬に学ぶ。放送局勤務の後,文筆業に入る。歴史小説を多数発表。1978,「蛇捕り宇一譚」で第5回日本作家クラブ賞受賞。
 他に「誰も書か次かった清水次郎長」「頼朝をめぐる女たち」「秀吉と五人の女」「徳川家康と女人たち」など。現住所静岡市大谷5660

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 本を読む前に、名古屋にある「二葉館」を見てきたので、貞奴と福沢桃介を中心にした話と早合点した。
 桃介との出会いもあったが、川上音二郎と出会ってからの波乱万丈の物語だった。音二郎というのは、初めはハチャメチャで、まともな人間だろうかと思うほどだったが、そこが型破りで、発想が奇抜、また思い切りがよく、非凡なのだろう。貞奴は音二郎の優れたところをいち早く見抜けたのだから、やはり並の人ではなかったようだ。

 アメリカに渡り、初めは苦労するが、音二郎のひらめきで切り抜け、成功してからヨーロッパにも渡って公演をする。ひらめいたらさっさと脚本を書いて公演をするなど音二郎は才能豊だったようだ。
 
 読んでの印象は、貞奴というよりも私には、音二郎の印象が強かった。気になるのは日本人には荒唐無稽だが、外国人の求める芸者や切腹を筋に関係なく入れたりして成功させたところだ。
 このせいだけとは思わないが、外国人が日本に対してゲイシャとハラキリのイメージが定着したのだろうか。

 日清戦争などの時代に、外国へ行こうとするのは、相当勇気がいる。貞奴はすごかった。


伜・三島由紀夫
平岡 梓
文春文庫

2008/8/26
1996/11/10 発行
 いつもと違う時刻に就寝の挨拶にやってきた伜。まさかあの味気ない会話が親子今生の別れになるとは。翌日、三島由紀夫は自ら生涯を閉じた。生き急いだ彼を、肉親はいかに見つめていたのか。毒舌家で知られた実父が、独特の諧謔を連ねつつも、愛息の誕生から「事件」まで、無念の思いを湊ませて描いた回想の記。解説・徳岡孝夫
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篤姫

わたくしこと一命にかけ

徳川の「家」を守り抜いた女の生涯

原口 泉

グラフ社



2008/7/15

2008/1/1 発行
NHKの大河ドラマ「篤姫」の原作は宮尾登美子、脚本は田淵久美子、ドラマの時代考証を担当したのが、著者原口氏。これまでにも「翔ぶが如く」や「琉球の嵐」も担当されてきたのだとか。
 
 今まで認識の薄かった篤姫について知りたいという単純な動機で求めた一冊だったが、歴史的背景、他の人物像の説明など、よくわかった。

 篤姫の嫁いだ家定がどういう人だったのかがずいぶん気にかかっていた。軽い脳性まひで、言語も不明りょうで人前に出るのを極端に嫌ったが,知的障害は無かっただろうという。カステラや炒り豆、ふかし芋を作るのが趣味だったとある。篤姫は使命を持って嫁いだので、たとえ家定が暗愚だったとしても、だからかわいそうだったということではないのだろう。

 勝海舟と親しくし、江戸が東京になってからあちらこちら案内してもらったとか、篤姫は裁縫が得意だったとか、ペリーが日本にやってきたとき、御台所へのプレゼントとしてミシンを贈っているのは、裁縫好きを知っていたのだろうか、とか今まで考えたこともない事柄が書かれていて、興味深かった。
原口泉(はらぐちいずみ)
東京大学文学部国史学科、同大大学院修士課程修了(文学修士)。同博士課程2年を終えて(単位取得)、1979年、鹿児島大学法文学部に赴任、1998年より教授。琉球大学非常勤講師、放送大学客員教授を歴任。2005年、鹿児島大学生涯学習教育研究センター・センター長に就任。専門は日本近世・近代史。とくに、沖縄・北海道・韓国・中国等、東アジア諸地域とのつながりの中で、南九州と薩摩藩の歴史研究に取り組む。日本各地から東南アジア、ヨーロッバで講演。NHK大河ドラマ「翔ぶが如く」(1990年)、「琉球の風」(1993年)、「篤姫」(2008年)の時代考証を担当。


封印の島 
上・下


ヴィクトリア・ヒスロップ

中村妙子 訳

みすず書房




2008/7/10

2008/5/19 発行

 ロンドンで育ったアレクシスは25.,仕事に確かな手ごたえのつかめないまま,数年来の恋人エドとも,少しずつ噛み合わないものを感じはじめている.
 一マムは今の私の年頃にはすでに結婚七年目で,二人の子どもの母親だった.どんな少女時代を送ってきたんだろう,マムは?マムが人生にどんなふうに立ち向かったか,それがわかりさえしたら……
 母ソフィアは,結婚前の生活について,夫にも,子どもにもいっさい口を閉ざして語ったことはなかった.休暇でエドとともに訪れたギリシャで,アレクシスは母の過去をもとめて,ひとりクレタ島の小邑プラカヘと赴く.ふるさとの村で彼女が知らされたのは,ソフイアの祖母のエレニがハンセン病に罹り,患者を隔離・収容するための沖合の島へ送られて生涯を終えたという,衝撃的な事実だった.
 実在するハンセン病コロニー,スピナロンガ島を舞台に,複数のプロットがやがてひとつの大きな流れをなす(上・裏表紙)

 エレニの罹病と隔離,そして死.第二次大戦終結後のクレタ島で,のこされたふたりの娘たちは,それぞれの運命を生きてゆく.
 欲するものすべてをその手におさめることを願い,結婚によって富裕な階層への上昇をはたした姉アンナ.老いた父のそばで薬草をあつめて人に癒しをもたらし,日々の手仕事に自分の居場所を見いだしてゆく妹マリア.やがて,マリアは母とおなじハンセン病に冒され,スピナロンガ島へと渡るが,そこで彼女が見たものは,母がいた時代に幕をあけた,患者たちの力強い自治,患者の人権を確保した医療体制の実現に持てるすべての力をそそぐ医師たちの姿だった.
 病気への偏見と差別からおきた全島焼き討ちの危機を乗り越え,新薬によってついに完治して,マリアたち元患者は島をあとにして本土のプラカ村へ帰ってゆくが,その夜,思わぬ悲劇がアンナを襲い,アンナの幼いひとり娘ソフィアの運命もいやおうなしに押しながされてゆく…・・
 母ソフィアの封じられた過去を追って呼びさまされた,ヒロインの前につらなる三代にわたる女たちの物語(下・裏表紙)

   ************************
読み始めると、惹き付けられて一気に読み終えた。ハンセン病に罹り、島に隔離された人も、コミュニティの中で生きがいがあれば生活は違ったものになってくる。重い事柄を描いているのだが、人物の人柄のおかげで読み応えのあるものが、読みやすいものになっている。


地球システムの崩壊


松井 孝典


新潮選書





2008/6/3


2007/8/25 発行

宇宙的スケールで論じる、地球と人類の過去・現在・未来。
月面着陸という快挙、宇宙の辺境への探査…・・人類はかつてない高度な文明を築き上げた。しかし皮肉にも、物質的な豊かさは地球温暖化や人口爆発など、人類の存続を脅かす問題をもたらした。我々は生き延びるために何をすべきか。深刻な課題の本質を地球システムのなかで捉え、宇宙史、地球史、生命史とともに解明する、知的刺激に満ちた文明論。(裏表紙)
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 第一部では、「二一世紀の宇宙と文明を探る」ということで、宇宙、太陽系、地球、そして我々の文明について、最近の話題を中心に紹介されている。さすがに読んでいてよくわかる説明だ。なぜ人類は宇宙にまでその関心を拡大するのか?現生人類の特徴は、その時空を拡大し・そのなかで今、あるいは自らについて、その存在理由を問うことにある、と。
 第二部では、時空を拡大するとは、普遍を探るということである。考える対象について普遍か否か考えてみる。我々は、時空を拡大し、それを脳に投影して大脳皮質のなかに内部モデルをつくり、普遍とは何かを追求するとは、何とも不思議な知的生命体である。

 人類の二酸化炭素放出によって地球が金星化することはない。地球はシステムとして地球温暖化に応答し、その地表湿度を下げるからである
 人類がいくら二酸化炭素を放出しようと、現在の地球システムが機能する限り、地球は金星化しない。
 二酸化炭素による温暖化ではなく、人類がたとえば大規模に太陽光発電を行うなどして、結果として今以上に太陽光を地表に流入させるか、あるいは核融合を実現し、第二の太陽を地表にもつかした時、真に温暖化する。
 世の中は、二酸化炭素のことばかり言っているが、専門家の中では否定論のほうが常識のように見受けられる。


親の家を片づけながら

リディア・フレム
Lydia Flem

友重 山桃(ゆら)訳

ヴィレッジブックス



2008/6/4

2007/10/20 発行
 父亡き後、ひとり暮らしをしていた母が逝った。私に残されたのは、一軒の家。もう住む人がいない家だ。
 「相続人」になった私は、しかたなく両親の思い出がつまった家の中を片づけ始めた。
 私は途方にくれた。あまりにも多くの物がここにはある。今までは触ることすら禁じられていた両親の大切な手紙や思い出の品々が、すべて私の物になってしまったのだ。
 少しずつ整理するうち、やがて姿を現したのは、まったく知らなかった両親の意外な素顔と、両親が生涯抱えていた深い心の傷だった―ー。(カバー)
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 私自身が親の家を片付けているのとは状況が違うからなのか(著者は両親を亡くし、家を空にする)、著者がフロイト研究者という立場や感性を持つからなのか、ここまで考えなくてもいいのにと感じ、少し違和感があった。生前の母親との確執が影響しているらしい。親が死んだことによって開放されたというのは、わからない。

 でも読み進むにつれて、親を亡くした娘として親の物に対峙する気持ちは同じなんだなあと共鳴する部分も出てきた。
 親から残された物は、『ありすぎても、無さすぎても子どもにとって苦しい』という言葉が印象に残った。
 こんな言葉も。「親がいなくなると自分の後ろから見守ってくれる人が誰もいなくなる。よりどころを失った背中は薄ら寒く感じる」


生物と無生物の間
福岡伸一
講談社現代新書

2008/4/11
2007/5/20発行


買い被られた名作
岡田 量一
彩流社


未読
2007/5/25 発行


男も知っておきたい
骨盤の話

寺門 琢己

幻冬舎新書



2008/1/11

2006/11/30 発行
健康な骨盤が周期的に開閉を繰り返しているのを知っていますか?血行の悪化、循環器不全、肥満、睡眠障害、免疫力の低下……一見ばらばらな体の不調は、すべて骨盤の開閉不全から始まっている。「体が歪む」とはどういうことか?歪むとなぜ内臓に悪影響を及ぼすのか?20年以上、整体治療院で、のべ数十万人以上の体と向き合ってきた著者が、骨盤と、上半身の骨盤ともいえる肩甲骨、この「2つの骨盤」を通して、体の不思議を徹底的に読み解いた!(カバー)


アウターマッスルを鍛えるだけではなく、インナーマッスルを鍛える必要がある。
例えば、プロ野球の清原選手が努力して身につけた筋肉のヨロイはアウターマッスルの典型、インナーマッスルが充分鍛えられていないとバランスが悪く故障の原因になる。
インナーがよく発達していれば、ロナウジーニョや中村俊輔選手のように体が細く見えていても、すばやく強く動くことが出来る・・・・という部分は興味深かった。
骨盤の話だけでなく、健康一般について、目からうろこの一冊。



東京タワー

ボクとオカンと、時々オトン




リリー・フランキー



扶桑社





2007/8/8

2005/6/30 発行
この話は、かつて、それを目指すために上京し、弾き飛ばされ故郷に戻っていったボクの父親と、同じようにやって来て、帰る場所を失してしまったボクと、そして、一度もそんな幻想を抱いたこともなかったのに東京に連れて来られて、戻ることも、帰ることもできず、東京タワーの麓で眠りについた、ボクの母親のちいさな話です。

 本屋大賞を受賞。読み終わってみて、本屋さんたちが薦めたいと思ったのがわかる気がした。
 
 普通の言葉で語っている。気取った言葉や懲りすぎた言葉ではない。淡々と語るから伝わってくる物がある。感情を抑制し、乾いた表現にするには事実をありのままに書くだけではできなかった工夫や苦労があったと察しられる。

 母親というのは子どもの為ならこのくらいは当たり前だと思うので、そんなに驚かない。むしろ、時々やってきて関わるオトンの存在が大きいと思う。自分ならこんな夫はいやだが、読むと味わいを感じるなあ、他人だからの無責任だとおもうけど、父親との関係が良く書けていると思う。
 節目にはやってきてオトンの役目を、かなり自分勝手だがやってくれる。気持ちが伝わってくる。子どもとして、本当のところは、恨みもつらみもあったんじゃないだろうか。距離をおいて乾いた感じで書いてなかったら、これほどしんみりとは感じられなかったかもしれない。
 
 後半は、病気をしたオカンを東京に呼んで、十五年ぶりに一緒に暮らす様子がほほえましい。一緒に暮らしている様子も、胃がんでなくなった後、オトンと後始末をしながら話すのも、著者のオカンへの思いが伝わってきて涙が浮かぶ。
 
 誰しも、自分の親を思い浮かべてしまうからか、まだ生きている親のことも、いつかくる別れを連想して泣けてしまう。
 泣かそうとして話を作っているのではない。ただ、逝ってしまった母を思う著者の気持ちが、読むものを感動させる。
 
 『親子』って『家族』ってなんだろうと考えたり、息子は母親のことをこんな風に考えてくれるのかなァ、と考えながら読んだ。


美しい国へ

安倍 晋三

文芸春秋




2007/6/29

2005/7/20 発行
最後に「十代、二十代の頃、どんなことを考えていたか、この国に対してどんな感情を抱いていたか、政治家としてどう行動すべきかなどを綴ったもので、若い人に読んで欲しい」と書いてある。
 だから、近代日本についての歴史や自民党の歴史を、わかりやすい言葉でまとめたのだろう。
 よくまとまっているが、表面的な印象で、だからどうなの?と言いたくなる。

 ゴーストライターはいるのだろうか。ナショナリズムについて考え方を述べる具体例として映画「ミリオンダラーベイビー」について、あらすじからテーマまで、要領よくまとまっており、他の何所で読んだのよりも映画についてよく分かった。

 政治家が書いた本として考えると、毒にも薬にもならない、今までのおさらいをまとめましたというに過ぎないと思う。

  はじめにーー「闘う政治家」「闘わない政治家」
  第一章  わたしの原点
  第二章  自立する国家
  第三章  ナショナリズムとは何か
  第四章  日米同盟の構図
  第五章  日本とアジアそして中国
  第六章  少子国家の未来
  第七章  教育の再生



建てて、いい?

中島 たい子

講談社



2007/6/27

2007/4/9 発行
1969年東京生まれ。多摩美術大学卒業。放送作家を経て脚本家に。2004年「漢方小説」ですばる文学賞を受賞。著書に「そろそろくる」(集英社)がある。
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 アパートの階段から落ちて、結婚でもしようかと思い、男探しをしたが、疲れる。本当に欲しかったのは落ち着ける居場所だったと悟り「家、欲しいな」と思う。
 三十半ばになって、捜している居場所は、他人に依存することでも、仕事で成功することでもなく空間に守られた個の場所、集合住宅でなく一軒家と考える。
 家を建てたいというと「誰と?」「妊娠してるの?」という周りの反応に、独身女が家を建ててはいけないの?と反論したくなるのも解る。
 「家なんか建てたらお前が満足しちゃって、もっとその気がなくなる」という父親の反応も鋭い。ハウジングセンターに行けば「奥様」と思われ、女が家を建てることはまだ常識ではないのだ。
 
 心の動きを気負いの無い素直な言葉で綴っていて、作者と一緒に、家を持つ準備をしていける。自分ならどんな家を建てようか・・・・・と。

 昔、三十歳過ぎても独身だったら、親と住む家を建てよう、と考えたことがあった。ヒロインは一軒家に独りで住むつもりだから私とは少し違うが、女性だって家を建ててもいいんじゃない?


大地の咆哮
元上海総領事が見た中国


杉本 信行


PHP



2007/3/19

2006/7/7 発行
 外務省には、「チャイナスクール」と呼ばれる人々がいる。中国の専門家となるべく育てられ、中国で研修し、勤務し、日中関係に従事する。
 杉本氏は、行動する外交官として、民間人と共に苦労してきた。

 氏はまえがきで「文化大革命末期の体験を含む長年の中国勤務を通じ、正直「中国に生まれなくてよかった」と思うこともあった。と書いている。中国では一般人、ましてや農民からある程度の地位に這い上がることは至難の業であり、一定の地位についても「密告者会」「監視社会」の中で生き延びるためには、上司、同僚、友人、知人から「刺されない」ことが必要で、時には友のみならず、親兄弟までも密告しなければ生きていけない時代があって、今もまだ残っている、と。

 きびしい中国社会に入っていって商売をするには日本人はお人好し過ぎるかもしれないと思う。
 「金を貸すバカ、返すバカ」といわれる中国人を相手に、どう対処できるのか。

 氏の北京研修時代、中国課勤務時代、台湾勤務時代、中国大使館勤務時代、上海総領事時代と、それぞれの時の中国について語り、奮闘したできごとが綴られている。
 円借款に対する中国指導者の認識のズレや、年々変化する「チャイナリスク」、オドロキの賄賂のローカルルール、反日運動の背景など。

 付録では、日中を隔てる誤解と対処法や過去をめぐる摩擦のポイントを7つにまとめてあり、頭の整理ができて私にもわかる。



がばいばあちゃん
佐賀から広島へ
島田 洋七
集英社

2007/3/8
 初めて読んだのが何作目かにあたるこれでなかったら、もっと感動したのかもしれない。
 既に、テレビで本人がエピソードについて語るのを聞いたあとだったり、高校生になる洋七さんの生活の記述はそれほど驚きも感動も感じなかった。

 すごいおばあちゃんかもしれないが、昔は皆、あまり豊かでもなかったし、自分の身近にこれに近い話はあったので、人が感動するほどには私には感動がなかった。

 洋七さんの話術のうまさで本が売れたのだろうと思う。14年も前に出版された本が、今頃になって洋七さんの努力で売れた感じがあるかなあ、と思う。



悪夢のサイクル
ネオリベラリズム循環


内橋 克人


文芸春秋




2007/2/22
 1960年代のアメリカの傍流の経済学者の頭の中で生まれたという「市場原理主義」レーガンやサッチャー小泉首相などが取り入れた経済政策。
 70年代の後半から、アメリカや南米の国々で実験が始まった。
 80年代の後半からは日本にもやってきた。「内需拡大」「内外価格差是正」「規制緩和」「努力が報われる社会」「「構造改革」・・・・・・いろいろにいわれながらやってきた。

 アメリカで貧富の差が広がったように、日本でも規制緩和から終身雇用も壊れ、ほんの一握りの非常で貪欲な人間がとてつもなく大金持になり、大多数の労働者は中流から下流へと落ちていく。その結果が今の格差社会であると。

 「格差」とはどこから来たのか、から説き起こし、規制緩和が何をもたらし、なぜ受け容れたのかを検証していく。

 「日本型資本主義だから不況になった」という規制元凶論が広まり「だから規制を取り払って新しい生活者主体の社会をつくろう」と、普通の人を保護する「規制」が経済の流れを阻害しているかの如く、不況の原因をすりかえた。
 バブルの発生から崩壊、そして規制緩和というサイクルはすでに南米で実験の行われたことであり、循環する物であり、日本もネオリベラリズム・サイクルがちょうど一巡しようとしているのだそうだ。
 グローバルスタンダードではない、アメリカスタンダードを押し付けられ、庶民の暮らしが苦しくなった流れが私にでも、よくわかるように書いてある。



ウルトラ・ダラー

手嶋 龍一

新潮社



2007/2/16

2006/3/1 発行
 著者は米同時多発テロの報道で知られるNHK前ワシントン市局長。
きわめて精巧な偽百ドル札(ウルトラ・ダラー)をめぐる国際謀略小説。著者初めての小説だが、どこまでが真実でどこからがフィクションなのか。

 BBCの東京特派員を隠れ蓑に、英国秘密情報部員のスティーブンが日本の女性官房副長官・高遠希恵や米国シークレットサービスコリンズらと情報のやりとりをしながら、偽百ドル札を追いかける。印刷技術を持った日本の若者の拉致、大韓航空機事件、同時多発テロ、現職総理初の訪朝など、実際の事件やフィクションを織り交ぜ、まるでドキュメンタリーのように事件の背後を描いていくので、自分の無知を自覚しつつ読み進んだ。
 当時の事件や出来事を思い出し、この人物はどの人がモデルだろうと詮索したくなるが、そう単純に書いているはずもない、日米ともに頭の切れる女性上司を配した設定なのは今時だからか、実際にも存在したのか気になるところ。
 北朝鮮が偽札を作って資金を作り買おうとしているのは、ウクライナの巡行ミサイル。スティーブンは取引の現場を押さえようとパリへ飛び・・・・・。

 日本独自の文化に精通しているのか、素材や背景に和的なものが多い。主人公が英国人の設定だから敢えて和的にしたのか?

 結末が「ええ、これなに?」だった。それまでが面白かったのに残念。



DZ
ディーズィー



小笠原 慧



角川書店





2006/10/22
 ヴェトナムの難民船に妊婦がいる。ペンシルベニアでは、ソリンジャー夫妻が殺され冷蔵庫の中で見つかる。5歳のデイビッドは行方不明。

 グエンはヴェトナム系アメリカ人。JHF研究所の研究員。その元へ留学して遺伝子操作の共同研究をしている石場直洋。その恋人で医者を目指している志度涼子は、研修で重度心身障害児施設「「近江 愛育園」へ。

 ソリンジャー夫妻殺害事件の担当だったスネル警部は10年後、退職してから独自に調査を始めると、デイビッドの資料が故意に消されたことを知る。診察した医師、ソーシャルワーカーなど、周りの人が変死をしている。

 グエンは、14歳で身元不明で保護され、高校、大学と優秀な成績で過ごし、医者になった。

 神経内科の水田は遺伝レベルの進化の研究をしていて、沙耶のデータが染色体検査の結果、ロバートソン型転座であることを論文で発表した。それを見たグエンは涼子の働く「愛育園」へやってきた。デイビッドを追いかけているスネルも日本へ、愛育園へとやってくる。
 やっと、ここからそれまでのバラバラだった事件が繋がっていく。

 孤児が拾われた後、優秀だからといってここまで重要なポストにつけるのかと疑問だったり、亡き恋人に対しても操を守った涼子が簡単にグエンと結ばれたのが不思議だったり、グエンが不妊治療の産婦人科医のヤンを意のままにあやつったり、いくらグエンのIQが高くても無理を感じた。ロバートソン転座の場合、同じ条件を持ったもの同士でないと子孫が作れない、つまりヒトから新しいとして生まれたホモ・スペリエンスである?
 横溝賞を受賞しているが、あまりこなれていない様な、全体になじめない物語だった。精神科医ならではの施設の描写はさすがだったが。
 DZは二卵生双生児のこと。



ヘルメットを
かぶった君に
会いたい




鴻上 尚史


集英社



2006/10/12

 1969年の学生運動の初期の映像、早稲田のキャンパス、入学式らしき風景、大隈講堂に入っていく学生にビラを配っているヘルメットをかぶった学生の中で、アップになった聡明そうな一人の女性のはじける笑顔を、30年前を写したテレビで見かけた僕、鴻上は猛烈に彼女に会いたいと思った。
 鴻上は早稲田に入学して演劇研究会に入って以来、今も劇作家として活躍している。あらゆるつてを頼り、彼女の行方を捜し始める。
 学生運動といえば、タオル覆面のイメージがあるが、彼女は顔をさらしアップで笑っていた。
 
 ヘルメットの君を探す旅は、浅間山荘事件、成田の三里塚闘争、ベトナム、沖縄、安保、そして諫早湾の運動にも触れていく。

もっとも激しく戦った人達は、黙して語らず僕が今まで会ってきた人問で、学生運動を熱く語った団塊の世代の人たちは、みんな、部外者だった。一度だけデモに行ったことがあるとか、クラス討論をしただけとか、学生運動の周辺にいた人たちだ。周辺だからこそ、彼ら彼女らは、熱く語った。本当に中心にいて傷ついた人たちの話を聞いたことはなかった」
 鴻上氏は、「僕達の世代は、『遅れてきた世代とか『シラケ世代とか言われた。高校や大学から、学生運動がほとんどなくなった世代だ。だからこそ、僕は、猛烈に憧れた。」と語る。学生運動に間に合わなかった世代だ。
 そして、「子供の頃、買ってもらえなかった、手に入らなかったことがトラウマになって、大人になって熱心に買いまくる『大人買い』のようだと僕の『学生運動』へのこだわりについて自分で思い当たったのです。」と分析する。

 演出家の蜷川氏が出てきたり、体験実話のように話が進むが、これは学生運動への憧れと青春の代償を見つめた劇作家初の小説だ。
 私は、学生運動滑り込みセーフ世代ではあるがノンポリだった。その場にいたのに何もしなかったことが関心を寄せる原因かも。


両さんと歩く下町

『こち亀』の扉絵で綴る
東京情景

秋本 治

集英社新書



2006/10/2


中央区佃。同じアングルから見た
景色の比較(2000年、1991年)

作者自薦のペン画集にして極私的下町ガイド、そしてメイキング・オブ『こち亀』の三つの顔を持った画期的新書。
山田洋次監督との初対談「葛飾に愛をこめて」
を特別収録。
『こち亀』の愛称で親しまれる、週刊少年ジャンプの人気連載『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の扉を飾った、普段着の下町風景。葛飾区亀有で生まれ育ち、昭和30年代からの下町の変遷を見続けてきた作者が、『こち亀』の舞台となった街を再訪し、その地への思いととっておきの話を綴っていく。

両さんの思い出話などの巻では大いに昔の町の様子が描かれていたが、扉絵にはまた格別に作者の思い入れがあり、しかも30年毎週休みなしにこれだけの絵を残してすごいと思う。新書版では絵が小さくてもったいない気がする。
また、新旧の街についての説明を読めば、現地を見てみたくなるだろう。



ウェブ進化論


梅田 望夫

ちくま書房



2006/9/12

 インターネツトが登場して一〇年。いま、IT関連コスト・の劇的な低下=「チープ革命」と技術革新により、ネツト社会が地殻変動を起こし、リアル世界との関係にも大きな変化が生じている。ネット参加者の急増とグーグルが牽引する検索技術の進化は、旧来の権威をつきくずし、「知」の世界の秩序を再編成しつつある。そして、ネット上にたまった富の再分配による全く新しい経済圏も生まれてきている。このウェブ時代をどう生きるか。ブログ、ロングテール、Web2.0などの新現象を読み解きながら、大変化の本質をとらえ、変化に創造的・積極的に対処する知恵を説く、待望の書。(カバー)

 いつの間にか当たり前に使っているグーグルだが、創業は1998年、米国のベンチャーのなかでもわずか7年で年間売り上げが5000億円を超えた企業の前例はない革命的企業、脅威を感じたビル・ゲイツも叩き潰すことができなかったという。
 ヤフーはメディア、グーグルはテクノロジー、マイクロソフトはこちら、グーグルはあちらで世界を構築する、グーグルがこれまでの企業といかに違い、すごいかがわかった気がする。

 あとがきでは、ネット世界を丸ごと身体で理解している若い世代を理解できないかもしれないが「息子や娘に対し『おまえたちのやっていることはどうもわからん』という気持ちを抱くお父さん方や、『ネット・ベンチャーなんかで働くのでなく、○○電気とか○○自動車とかに就職してくれればよかったのに…』と心配するお母さん方にとって、この本が何かの役に立てばなあとも思っている。」という言葉には自分も子どもに同じことを言いそうでギクッとしてしまった。



教科書には絶対書かれない
古代史の真相


松原 楊江
仲原 和人


たま出版





2006/9/6
 このての本をくだらないとか信じられないとか、まともに取り上げない人もいると思うが、私は昔から好んで読んできた。だけど、そんな私でも驚いてしまうような歴史が綴られていた。(著者は『日本書紀』を中心に、日本の古代史についての捏造、でっちあげ、隠蔽、ごまかしを論じてみたい、といっている)

 * かつてチャーチワードがいった「ムー大陸」とは「スンダ大陸」(旧インドネシア)のことで、ここが海没したのが「大洪水伝説」になった。
 * 聖徳太子は百済の威徳王昌で、日本には来ていない。
 * 道鏡系天皇家が『記紀』改竄に力を入れた。
 * 稲を持ったシュメール人と苗(ミャオ)族が有明海の鳥栖に上陸したのは、約3500年前。
 * 秦の始皇帝も、碧眼のユダヤ人だった。(バクトリア国の知事ディオドトスT世が、秦の始皇帝となる。)
 * 神武の九州王朝建国と、皇統譜の改竄   etc・・・・

 フッリ人、ネグリト人、ドラヴィダ人、ヒッタイト人、ヒクソス人、チュクル人、チュルク人、エブス人、ワジャック人、オロッコ人、港川人、エジプト人、シュメール人、ユダヤ人、ゲルマン人など、頭が混乱するほどたくさんの民族や種族が移動し、征服し、混血して新種族が生まれる。

 あとがきでは「すべての汎太平洋文化は、今から約1万2000年前、スンダ大陸の「エデンの園」などに存在した「先史文明」の再建を願って(方舟で)メコン河流域に達し、何千年もかけてタイ北東部の「バンチェン文明」をつくり上げ、それを「世界五大文明」の幕開けとして各民族に伝えたシュメール人(王族は蛇(ナーガ)族)らの偉大な文明復活の足跡であったことがわかる。」とまとめている。
 本書が真相、と俄かには信じがたいが・・・・・。



なぜ偉人たちは
教科書から
消えたのか


河合 敦

光文社



2006/9/5
 最近は、日本史の教科書から偉人たちの肖像画が消えつつあるらしい。たんに偉人の顔を掲載するより、図版や地図、当時の社会や世相がわかる絵画資料の方が歴史的思考力が培われると判断されたというのが一つ。もう一つは、教科書に掲載されている肖像画の中には、研究が進んで本人のものではないと考えられるものが出てきたということらしい。

 有名な源頼朝も今では「・源頼朝像」と紹介されている。実は頼朝ではなく他の人物の像だったらしいのだ。
 聖徳太子像もあやしいのだという。子どもの歴史資料を調べてみたら、聖徳太子はまだ太子像として紹介されていたが頼朝像は「伝」の付く紹介になっていた。なるほど。

 他には、、後白河上皇、足利尊氏、武田信玄、西郷隆盛らが、本人じゃない、人違いされたままの「肖像画」として解説されている。
 いまさら、違うと言われても記憶を書き換えるのは難しいし、なじみにくいなあ。若い人たちとの認識の違いが出そうだ。クイズも世代によって答えが変わるなどと下世話な心配をしてしまった。

 2章 イメージ崩壊!?テレビでおなじみ主人公の「仰天素顔」
 3章 伝説の「肖像画」人物の「謎」を解く
 4章 評価ががらりと変わった「肖像画」人物



日の名残り

カズオ・イシグロ


土屋 政雄 訳



中央公論社







2006/9/1

 古きよき時代の遺物であり象徴でもある「執事」を主人公にすえ、まだ世界に冠たる存在だったイギリスと、イギリス貴族と、その豪壮な邸宅を語らせ、イギリスの偉大な国土を語らせている。

貴族に長く仕えていた執事スティーブンスは、屋敷がアメリカ人の手に渡ったときそのまま執事として雇われた。主人が留守をするので、その間、旅行に行くことを許され、かつて女中頭で最近手紙をくれた女性に会いに出かける。

旅をしながら模範的執事らしい上品な言葉遣いで旅の途中のイギリスの人々とのふれあいを語り、その合間で回想するのは、父子共に誇り高い執事として人生を歩んだこと、主人のダーリントン卿は政策に誤りがあって失脚しようと尊敬できる人だったこと、執事はたとえ主人が間違っていると思っても分をわきまえ、主人に従うこと、女中頭と仕事上の対立もすれば、夜ココアをごちそうになったこと、彼女は結婚してやめていったことなど。
 
 全体にとても静かで上品な雰囲気だが、どうも言い訳がましさを感じてしまう。過去の仕事ぶりや、元主人ダーリントン卿が滅私奉公する値打ちのある人であったとか、女中頭「ミス・ケントン」との仕事上のおつきあいなどについての回想をしながら、今になれば間違いだったかもしれないが、後悔をしてはいけないと思い込もうとしているようで。
 20年経って、ミス・ケントンの手紙で不幸の様子を感じ取り、会いに出かける。屋敷の人手不足を補うため女中頭になってもらおうと理由をこじつけ出かけていくが、本心は恋心があったのだろう。抑えていた気持ちに素直になろうとしたのか、やっと自分の心に気づいたのか、朴念仁ではなかったのか。

 夕陽を見ながら「人生が思いどおりにいかなかったからと言って、後ろばかり向き、自分を責めてみても、詮無いこと。・・・・あのときああすれば人生の方向が変わっていたかもしれない・・・・・・意味のないことです・・・・・私どものような人間は、何か真に価値あるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分・・・・・・・そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、実践したとすれば、結果はどうであれ・・・・・・みずからに誇りと満足を覚えて・・・・・・」
 人生のたそがれ時で、今までの人生の間違いに気付いたら・・せつない。



わたしを離さないで

カズオ・イシグロ

土屋 政雄 訳

早川書房



2006/8/2
 不思議な世界だ。読み始めてすぐ気になる言葉に出合う。「介護人」「提供者」? 主人公はキャシー・H、31歳、介護人。
 謎の多い「ヘールシャム」という施設で子供達が育てられている。読むにつれ子供達の将来に待っているものが何となく察しられる。でも、まさか、ほんとうに?そんなむごいことが・・・・?わかっているようではっきりしない不可解な事情。

 解説にあるように「細部まで抑制が効いた」「入念に構成された」静かで端正な語り口で、奇怪な世界が語られていく。あわてず、急がず、じわじわと物語の切迫感を募らせていく。
 今はまだこの世にはないが、いつかこんな世界が始まるとしたら怖い。。 臓器を提供する為にクローンとしてこの世に生を受け、世間とは隔絶した特別な環境で臓器提供の必要があるまで生きていく。臓器を提供した後は施設で介護人の世話を受け、回復し、何度か提供して使命を終える。

 キャシー、トミー、ルースの三人を中心に、幼少から思春期までの若者達の成長と心のふれあいを描いている。その部分ではふつうの若者達だ。心もあり悩みもする普通の人間なのに・・・・クローンは人間ではないとでもいうのだろうか。
 主人公達は静かに運命を受け容れている。こんな運命が受け容れられるだろうか。たとえそのために作られた命だとしても。
 
 臓器提供を扱った小説はいくつもあるが、このような描き方は他にはなかった。提供する命より提供される命の方が価値があるのだろうか。



あやつられた龍馬

明治維新と英国諜報部、
そしてフリーメーソン

加治 将一 著

祥伝社



2006/7/20
 明治維新は不思議な革命だ。

 龍馬をあやっった陰の「カ」とは、そしてなぜ彼は暗殺されたのか?●なぜ下級武士の龍馬が「薩長同盟」を仲介できたのか
●謎の武器商人、トーマス・グラバーとは
●グラバー邸の「隠し部屋」には龍馬がいた
●英国公使館を放火した伊藤博文が「英国密航」できた理由
●「亀山社中」は武器輸入のダミー会社
●日本人初のフリーメーソン・メンバーと薩摩藩士・五代友厚の密会
●龍馬が「最後の手紙」に込めた暗号と「龍馬暗殺」の真犯人(カバー)

 著者は、フリーメーソンを調べていく中で、アメリカ独立戦争、フランス革命、世界大戦などの大変革とフリーメーソンとのかかわり合いを知り、では日本はどうだったかと考えた。
 フリーメーソンが日本に介入するほど、当時の日本に価値があったのだろうかとも思うが、一介の脱藩者の龍馬が「薩長連合」「大政奉還」の大仕事を成し遂げる。 その影に力を持った者がいたと考えてもおかしくはない。フリーメーソンのグラバーが影で動いたといわれればそのようにも思えてくる。

 本当にフリーメーソンが暗躍していたんだろうか。

 龍馬暗殺の謎も解き明かす。興味深い、新しい明治維新論になっている。



日本は二十一世紀の勝者たりえるか

―こうすればこの国はよくなる―

日下 公人
渡部 昇一
竹村 健一


太陽企画出版



2006/6/25


「国家の正体」日下公人

 面白そうな顔ぶれの鼎談である。
 一般マスコミとはまったく異なる視点で、日本が現在抱えているさまざまな問題点と、明治以降の歩みを振り返ったもの。
 二十世紀の勝者は日本であった、というところから始まり、世界を揺るがした日本の二十世紀だったという具体的な例をあげつつ、現在の日本が瀕死の状態であると国民国家を憂う。

 「無敵の戦闘機」ゼロ戦の栄光と挫折、「ノモンハン」の教育を生かせない日本など、何が「敗戦」と「大不況」をもたらしたかを検証し、日本復活の条件とは何かを考える。

 戦前の日本は軍国主義が支配し、アジアを侵略した暗黒の時代であり、日本は世界に対し酷いことばかりしてきたと今の子どもたちが教えられているとしたら、子どもたちは自分の国に誇りがもてず、二十一世紀の日本がどうなるか心配になってくる。
 
 植民地のナショナリズムに火をつけた目露戦争
竹村  二十世紀初頭の日露戦争で、極東の島国日本がロシアに勝利し、また、英米を敵に回して日本が立ち上がったことは、帝国主義の搾取に苦しんでいた多くの有色人種の人たちに勇気を与えました。だから、そういう点では、日本は本当に良いことをしたんです。ところが、そういうことが日本の小学校・中学校の歴史教科書には書かれていないんです。その結果、日本人は自信を失っているのであって、だから日本の歴史を肯定的に捉える部分が教科書にはあってもいいと思うんですよ。そうすれば、日本人が自信を取り戻すことができそうな気がします。

 戦争に関して、知らないことが多すぎる。知らないままにしていてはいけないのだと思う。



あなたの脳には
クセがある


『都市主義』の限界



養老 孟司

中公文庫



2006/5/24
 この本は「バカの壁」とちがって、養老先生自身で書かれたもののようだ。文章の最後に「・・・・理由はいうまでもない。」自分で考えなさい、という終り方の箇所もある。もちろん、そこへ至るまでの論理は説明されているのだが。

 脳にはクセがある、頻繁に繰り返し脳に入ってくると、それを現実のことと受け止めてしまうんだとか。
 数学者にとっては数字の世界が実存する、企業人、経営者にとっては金が実在する物になる。立場によって実在する物も違ってくる。
 脳は個人のモノサシであり、モノサシが違う相手と話が噛み合わないのもやむをえない。が、分かり合えることはできるはずで、わかろうとしなければいけないという。
 「わかる」というのは、外から入ってきた情報なりを自分の頭、脳で考え、租借、整理して理解することだ、と。

 面白い内容の文章があったのでそのまま書き抜くと
 かつて男の子は男らしく、女の子は女らしくと育てた。子どもを放っておいたら、そうはならないからこそ、わざわざしつけ、教育する。
 もともと女の子は、放っておけば「元気で活発でよいお嬢さん」になってしまう。だから女らしく、おしとやかにと、しつけ、教育する。男の子を放置すれば「大人しくて、よく他人のいうことを聞く、よいお坊ちゃん」になる。だから男らしく勇敢に、元気であれとしつけ、かつ教育する。それが本来のしつけであり、教育であろう。
 長いあいだ、男らしく、女らしくと教育したのは、それが作られるもの、すなわち文化だったからである。それを生まれた性質そのままで伸ばそうとする。それにはわれわれの社会がよい実験台だったわけである。そのまま「自然に」育てた結果が、女がやたらに元気で、男がいっこうに元気がない社会になった。

 都市主義、歴史認識、子ども問題、思想や医療、「朗読者」についての感想まで、なるほどと思いながら読み進んだ。



侵入社員
上・下

ジョゼフ・フィンダー

石田 善彦 訳

新潮文庫



2006/5/9
 米国のハイテク企業に勤務するアダムは、いわゆるダメ社員。待遇の低さにも嫌気が差し、遅く出社、早く帰宅がモットー。ある日、友人の退職パーティを企画するが、経費は会社のコンピューターを不正に操作して捻出する。しかし、それがバレて上司から厳しい選択を迫られる。横領罪で55年の服役か、ライバル会社にスパイとして入社するか。アダムはこの窮地を切り抜けられるのか(上、カバーより)
 企業スパイとなるべく、アダムの特訓が始まった。よれよれのジャケットを捨て、一流ブランドのスーツを着こなす。上司から経営学、ハイテク知識、盗聴などのスパイ技術を叩き込まれる。そんな努力が実り、アダムは見事にライバル会社への再就職に成功。そこで意外な才能を発揮し、出世街道を爆走する。そして夢のような生活を手に入れたと思ったのだが。新感覚の企業スパイ小説!(下)
 
 新聞で、ITも企業社会もスパイも、すべて嫌いなあなたでも文句なく面白い、と紹介されていたので、ITも企業社会もスパイも好きならこれは読むしかない!と思った。
 スパイ技術の専門用語をつかった章タイトルも楽しい。
 テンポよく読みやすく面白い。一気に読める。
 



孫が読む漱石


夏目 房之介


実業之日本社




2006/4/23
 文豪の家に生まれるというのは、荷が重いものなのだろう。反発もしたのだろう。それでもやはりしっかりと向き合わざるを得ない人として、漱石の作品について語っている。
 身内にしかわからない漱石の息子、つまり房之介さんの父上の高等遊民ぶり、母上の苦労ぶり、悪妻といわれた鏡子夫人の大きさも語られる。
 
 『坊っちゃん』は、わかりやすい、もしそれが「わかりにくく」なっているとすれば、読者の読解力が落ちているというより、文体、修辞のスタイルが、時代、媒体により、移り変わっているからだ。これは『坊っちゃん』を難なく読める年配世代に現代マンガを読ませても、頭痛がするほど難解である事と同じ、とマンガ評論家らしく解説されて面白い。
 

 「何か」、がおきそうでおきない『三四郎』、おきてしまう『それから』に続き、おきてしまった過去のおかげで何もおきてほしくない夫婦の何もおきそうもない小説。それが『門』なのだ。これもなるほどと思った。
 『明暗』の会話は長い。誰でも日常やっているのと同じように長く、いつも俺やってることじゃん、という感覚。それを「面白い」と感じれば、読む価値はあるだろう。一方で、今さら自分がいつもやってることを、わざわざ深刻で言葉遣いのむずかしい昔の小説で読んでもなあ、という率直な感想もありうる、と述べている。
 こんな感じで漱石の作品について、他の人とは一味違う感想を読んで楽しませてもらえた。



おじさんはなぜ
時代小説が好きか



関川 夏央


岩波書店








2006/3/14
 おじさんでなくたって時代小説は好きなんだけど。
少しは時代小説を読んできたつもりだが、本書を読むと今までは読みが浅かったかもしれないと気付いた。同じ江戸時代でも初めころと中ごろでは社会背景が違うはずなのにまとめて『江戸時代』と考えていなかったか・・・。
 
 過去を裁くのは、歴史の結果を知っている限り、かなりやさしい。いかに裁判官にならずに歴史をえがけるかが問題で、その実践のひとつが司馬遼太郎の『坂の上の雲』であり、すぐれた大衆小説はつねにそういうことをめざしている。多作しても質の落ちない作家、また長編作家にして短編もうまい人と、司馬への評価はとても高い。

 吉川英治の「武蔵」の章では、野武士は人を殺しても収穫物を盗もうとする集団だから、農民たちは逃げ出す。それを武蔵が止める。彼らを武蔵が指導して集団で野武士を撃退する。実力自衛ということを村人に教えた武蔵と伊織は、感謝されながら村を去る。『七人の侍』のシナリオライターたちは、根本的なアイディアを『宮本武蔵』のこの部分から引っ張ってきた。それを大きく膨らませて世界的な作品にした。逆に、黒澤明の『用心棒』の構造は、ダシール・ハメットの『血の収穫』を踏襲している。すぐれた物語は相互的な刺激のなかから生まれてくる。というようなミーハー的な話も知る事が出来て嬉しい。

 山田風太郎の作品群のおもしろさは、日本文学の歴史や日本文学に刺激を与えた外国文学をとりこみ、パロディとかパスティーシュとかいった方法で、日本文学の幅を押し広げたところにある。風太郎の『八犬伝』についての説明を読んでいるうちに読みたい気持ちが湧いてきた。
 
 山本周五郎、吉川英治、司馬遼太郎、藤沢周平、山田風太郎、長谷川伸、森鴎外などの作品と人物を取り上げ、若い人が時代小説に親しめるように解説をしているのだが、マンガのバガボンドや映画にまで解説がおよんで、おじさんにもおばさんにも参考になると思う。



偏愛文学館


倉橋 由美子


講談社









2006/3/8
 若き日、難解で理解できなかったにもかかわらず何作も読んだ作家が、書き綴った読書案内。かつて読んだ本の難解さの理由が少し見えてくるような現代の本への辛らつな言葉も挟みながら、倉橋氏の『偏愛』している作品の数々が紹介される。怪談、怖い話、妖しい話を集めた物も愛好してやまないと、「聊斎志異」「雨月物語」についても紹介している。

 少し以外だったのは時代物で、岡本綺堂「半七捕物帳」は、どこからでも読めるし、何年か経てば再読できる。ホームズものを何度でも読めるか疑問だが、半七は読むたびに滋味が増し、謎解きの興味だけで読ませる推理小説と違って小説としての質が格段に高い、と魅力を語る。
 「山月記・李陵」の中島敦については、今では誰も真似のできなくなった見事な文章で小説を書いている、「無人島に1冊だけ持っていくとしたら?」候補五冊の中の有力な一冊にあげられる、と絶賛している。高校の教科書にも載り、娘からも是非読むようにと薦められていた一冊だ。北杜夫「楡家の人々」も無人島へ持参の候補だそうだ。
 
 今の若者たちのしゃべり方でしゃべり、メールの文章と同じ調子で文章を書くような人物が登場するような小説は読みたくもない、ふと目にしたその一文に酔いしれることのできる、ジュリアン・グラック 「アルゴールの城にて」を読みたい、と。
 有名人や話題の人をとりあげて、その人の生い立ち、学校時代の成績から交友・交情関係まで調べ上げ、数百ぺージの本を書き上げる最近の労作といわれるものを、文章を書く才能もない人が誰でも、ゴミ集めの努力だけで本が書ける世の中になったといい、それより一筆で描いた名人芸を楽しみたい、と厳しい。
 漱石、鴎外、三島、カフカ、オースティン、ハイスミス、太宰、百閨A澁澤、川端、カミユなど倉橋氏らしい選択と解説が楽しめる。
 昔、倉橋氏は「インプットするだけでアウトプットをしないなら、そんな読書はしないほうがましだ」と書いた。それでも私は読書する。
若き日に読んだアレコレ 「暗い旅」「悪い夏」「婚約」「聖少女」「ヴァージニア」「夢の浮橋」「わたしのなかのかれへ」「パルタイ」「妖女のように」



上がれ!空き缶衛星


川島 レイ



新潮社




2006/3/3
 1998年、ハワイで開かれた「大学宇宙システム・シンポジウム」で、米国スタンフォード大学工学部宇宙工学科のロバート・トィッグス教授が「Cansat]を打ち上げようと提案した。ハワイには日本からは九州大、北海道大、東大、東工大が参加していた。「カンサット」とは、350ml入りのジュース缶サイズの人工衛星のこと。空になった市販のジュース缶の中に、電池、マイコン、通信機、センサー、GPSなどが搭載され、打ち上げられた後、地上局と電波で交信をすることができる。
 1999年、米国ネバダ州の砂漠で初めてカンサットが打ち上げられた。この時、日本からは東京大学と東京工業大学の学生たちのグループが参加した。初めてカンサットづくりに挑んだ東大と東工大のうち、東大の学生を中心に、その苦闘の1年を追ったドキュメントである。
 「衛星を作って打ち上げる」という共通のゴールを持つているために、ただの同級生とか後輩とか先生だった者たちが、幾多の葛藤と紛糾を経て、かけがえのない大切な仲間になっていく。普通の大学生活では得られない大切な何かを、望むと望まざるとにかかわらずそれぞれが体験した。
 東工大、東大といっても、実は大学としてやっているわけではなく、大学の一研究室、つまり、いってみれば大学内の個人商店で細々と始めたものだったので、カンサットのプロジェクトにどんなに力を注いでも、大学での研究評価にはつながらない。理論研究を重んじる教授陣からの風当たりもなかったわけではない。しかし、そんなことは衛星を自分で作って打ち上げられるという喜びに比べたら、取るに足りないことだと考える。こんなふうに思えるものに出逢えた人は幸せである。
 取り組む姿勢に日米での違いもあって面白い。「月下美人」との命名もステキだ。



ディープ・スロート
大統領を葬った男

ボブ・ウッドワード

伏見 威蕃 訳

文芸春秋



2006/2/10
 
 ニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」から33年。新米記者ボブ・ウッドワードに地下駐車場で極秘情報をリークしていた人物が名乗りを上げた。当時のFBI副長官マーク・フェルト。ディープ・スロートが誰なのかは長い間謎だった。ボブはフェルトが死ぬまで秘密を守り抜く覚悟でいたが・・。「ディープ・スロート」というのはその当時話題になっていたハードポルノのタイトルだが、ワシントン・ポスト内で通称「ディープ・スロート」と呼んでいた。
 
 ニクソンを追い詰めていく新聞記者の活躍は、カール・バーンスタインとの共著「大統領の陰謀」で描かれ、映画ではボブの役はロバート・レッドフォード、カールの役はダスティン・ホフマンが演じていた。
 
 本書は、フェルトとの出会い、情報源秘匿のエピソード、取材や記事の扱いの当時の裏事情、その後のディープスロートにまつわる様々な推理、80歳を過ぎてフェルトが当時の記憶が薄らいでいることなど、歴史的報道の裏側を自伝的に語った、今だから書ける内容だ。

 著者には他に「ブッシュの戦争」「攻撃計画」などがある。
 しばらく入手困難だった「大統領の陰謀」の邦訳が再刊されたそうなので、映画しか知らない私は読んでみたいと思う。



浦島太郎は
どこへ行ったのか


高橋 大輔


新潮社



2006/2/8

高橋大輔氏 HP

ブログ

 
 おとぎ話の浦島太郎がこんなに奥の深いものだとは思わなかった。

「丹後の国風土記 逸文」では、浦嶋子は、海で大亀を釣り上げたら、それは蓬莱からやってきた亀姫の化身で、プロポーズされるままに出かけていく。帰る時渡された物は、玉匣(たまくしげ)、箱を開けたら老人にはならない。この話が収録されたのは8世紀奈良時代だが、実話として既に広く知られていたものらしい。
 「日本書紀」では、ほんの数行、浦嶋子が釣りをしていたら大亀がかかり、それが乙女となり妻にした。ふたりは海に入り、蓬莱山へ行った、と書かれている。「万葉集」にもある。
 
最古の浦島伝説とは異なり、室町時代に書かれた小説からは蓬莱が龍宮に、玉匣が玉手箱と呼ばれるようになり、箱を開けると老人になってしまう。伝説の変遷は、「御伽草子」からのようだ。
 現在の我々が知っている『浦島太郎』が完成するのは明治時代になってからで、恋愛小説から子供向けになったのは、国語の教科書に採用されたり、文部省唱歌になったりした時らしい。
 著者は蓬莱はどこだろう、龍宮は?と探して中国へも行った。「宋書 倭国伝」も調べる。山東省の蓬莱閣へ行き、ここが孫悟空も訪れて如意棒を授かった海底の龍宮ではないかと思ったりする。浦島は、海幸彦、山幸彦と関係があり、龍宮は琉球と関係があり・・・それは雄略22年、西暦478年のことで・・・・。

「捜神記」「拾遺記」「史記」 「魏志倭人伝」 「万葉集」 「古事記」 「浦嶋明神縁起」(絵巻)こんなにたくさんの文献を調べ、各地にある浦島伝説を訪れて丹念に検証していくのはすごい。

 古い日本のことも神話も勉強できて、有意義で楽しい謎解きの旅だった。
 他には   ロビンソン・クルーソーを探して  がある。




朝日」ともあろうものが

烏賀陽 弘道

徳間書店


2006/1/31
 タイトルの言葉は、著者が朝日の記事を批判した言葉ではない。読者が苦情を言ってくる時の決まり文句だそうだ。「朝日新聞のことを高く評価しているのにこんなことをするとは何だ」という意味だ。
 
 本書は、朝日新聞に17年勤めた著者が、『なぜやめたくなったのか』を書いた一冊。
 例えば、経費やタクシー券をチョロまかす同僚や、記事の捏造を部下に強要するデスク、「前例がない」と言って原稿をボツにする上司、社用ハイヤーで奥様とフランス料理を食べに出かける幹部など、内部暴露になっている。
 ほかの新聞社にも共通だが、記者クラブ病や、「特ダネ」という記者クラブ内ゲームの苦役を批判し、記者は自分で考え、読者が気付かないこと、知らない事を知り、問題を見つけて書いてこそプロなのだと主張する。
 朝日記者のエリート意識の作られ方や、特派員にはアシスタントがついて英文の記事を翻訳し要約してもらったり、通訳もしてもらえ、英語ができなくて特派員が務まる不思議の事実を知って驚いた。
 「朝日ともあろうものが」「天下の朝日」「エリート集団・朝日」こんな幻想をもつのはやめよう。腐敗から目をそらさず、沈黙せず知らせ語るべきではないかとよびかけている。
 



国家の正体
日下 公人
KKベストセラーズ

2006/1/24
 「国家」ってなんだろう、というのを、わかりやすく説明していく。
 戦争中、日本人はアジアで無茶苦茶ばかりしたんじゃない話、アメリカが思想の一部を抹殺しようと、図書館の本を一部接収したが、家庭に蔵書のある日本では効果がなかった話、西欧人が学問思想の自由をなぜ強く言うかといえば、そんな自由が昔なかったからで、日本人がなぜ言わないかといえば昔からあるからである、今では、アメリカ式は見直されるべき時代なのに、日本では英語自慢、学歴自慢、留学自慢の人がグローバル・スタンダードの導入の効果を説いているという。
 あれこれと目からウロコが落ちていった一冊だ。



在日

姜尚中

講談社




2006/1/19

 朝鮮半島の人への先入観を払拭しそうな著者の印象と、語り口。背は高くスリムでハンサムで、もの静かに語る姿をテレビで見てファンになった人は多いだろう。それでも、この人は特別なのじゃないかと思えて、朝鮮半島の人たちへのイメージはなかなか変わるものじゃない。
 内容はあまり日本を攻撃してなくて、読む前に想像していたよりも静かで、姜教授の生い立ちを通じて政治の表面をなぞっている、歴史のおさらいをした感じだ。
 政治的な立場や意見が深く掘り下げられていなかったのは、自叙伝として、自分達の存在についての悩み苦しみ、自己の生きる方向性が得られるまでの過程の検証、それを文章にしたものだったからだろうか。

 著者は、逆境にもまけず成功したサクセスストーリーや、人との出会いを大切にしたおかげだという処世訓や、在日の『生きた』教材というような解釈をしてほしくないというが、やはりそのように読めた。
 どん底の家庭環境だったかもしれないが、控えめな著者ですら自分のことを、「勉強とスポーツでは目立っていた」と書いているくらいだから有能さが人の眼について引っ張りあげてもらえたのだと思える。
 在日の人たちがどれほどの差別に耐えたかとか、至極あたり前の感想をもって読み終えた。




「白鯨」
アメリカン・スタディーズ


巽 孝之


みすず書房



2005/12/28


 「世界名作十大小説」に必ず入る『白鯨』。この物語は、魔獣モビィディックヘの単なる復讐譚ではない。時空を越えて現れる巨大生物が象徴するものとは何か?ここに19世紀から21世紀へ至るアメリカ文明史を、そしてグローバルな現代史をスリリングに読み解く。アメリカ研究の第一人者が満を持して贈る。(カバー)

 著者が言うように「かってモビイ・ディックなる名前の白鯨に片脚を食いちぎられたエイハブ船長の復讐心に巻き込まれて、一丸となり白鯨打倒をめざし船長自身が白鯨との死闘にのぞむも、むしろ白鯨の逆襲を受けて船ごとばらばらに破壊されてしまい、悲しいかな全滅してしまうお話」
 という認識しかなかったのだが、本書では、白鯨の結末を原作と変えて作った映画の方が後への影響力が強かったとか、その映画の脚本を書いたのはレイ・ブラツドベリだったとか、白鯨との戦いは日本の沖で、日本の開国につながるペリーの来航は捕鯨だったとか、あんなこともこんな事も、マンガのことも描いてある。「白鯨」から広がる内容は驚くばかりだ。

 そして私が注目したのは、クラークの「幼年期の終り」が、『白鯨』へのオマージュを含んでいるということ。それを発展させた「2001年宇宙の旅」の船長ボーマンとエイハブの腹心の友である拝火教徒フェダラーが「漕ぎ手」(bowsman)であったという共通点、映画版ではゾロアスターを拒否することなく、二ーチェを経由したリヒャルト・シュトラウス作曲の「ツァラトゥストラはかく語りき」の印象的な響きで始まるということも、ああ、そうだったのかー!と。

 我が家の世界文学全集の24巻が「白鯨」で、ずっと何年も読みかけたままで放置していた。この機会に読み続けようかと思い、本書にテクストとして一部の訳があるので私の全集と比べてみたら、巽氏の訳の方がずっと読みやすいことがわかった。こちらならもっと読み進めそうな気がするのだけど。




もしも月がなかったら

――ありえたかもしれない地球への10の旅

ニール・F・カミンズ
竹内 均 監修
増田まもる 訳



2005/11/8
 
 もしも月がなかったら?・・自転速度が地球よりずっと速く、1日は8時間となる。生命の進化も遅い。
 
 もしも月が地球にもっと近かったら?・・公転周期が短くなり、日食や月食がひんぱんに起こる。潮の干満差が激しく、地震が頻発する。

 もしも地球の質量がもっと小さかったら?・・地震、火山活動の頻度が極端に小さくなるので空気が薄くなり、酸素が少ない為、人類は肺を大きくし、背を高くし、胸を厚くするだろう。

他にも、もしも地軸が天王星のように傾いていたら?もしも太陽の質量がもっと大きかったら?もしもオゾン層が破壊されたら?など、全部で10通りの〈ありえたかもしれない地球〉への旅をたどるシミュレーション・ロマン。
 少しの条件がちがうだけで、今のような地球はありえなかったことを考えると、地球は限りなく偶然が重なってできた星だとわかる。微妙なバランスを辛うじて保っているように思える地球。もっと、もっと地球を大切に!と考えさせてくれた一冊。

 万博の三菱館では、この本を元に地球環境を考えるシアター型パビリオンを作ってアピールしていたそうである。




イデアの洞窟

ホセ・カルロス・ソモサ

風間 賢二 訳

文芸春秋



2005/11/3

 古代ギリシア、アテネ。野犬に食い殺されたとおぼしき若者の死体が発見される。だが不審を抱いた者がいた――〈謎の解読者〉と異名をとる男、ヘラクレス。調査に乗り出した彼の前にさらに死体。この連続殺人事件の真相は・・・・・。
 ・・・という書物『イデアの洞窟』の翻訳を依頼された後の時代のわたしは、この物語にはギリシアでの「直感隠喩」という技法がちりばめられていると感じる。この「翻訳者」わたしは、訳注の形で自分の考えを記録している。やがて、作品の中に自分が登場していると不審を感じたころ、何者かに監禁され、翻訳を急がされる。『イデアの洞窟』の作者は誰か?この書物の鍵は何か?
 いわゆる脚注小説で、脚注の中で本文とは異なるもう一つの話が展開していく。プラトンが創設した学園アカデメイアやその生徒が登場し、哲学者やカルト教などがからまりあいながらイデアについて何度も語られる。

 本書は、世界最大のミステリ大賞として有名な英国推理作家協会最優秀長篇賞受賞に輝いた作品なのだが、二重、三重に仕掛けられた語りの罠に翻弄されてしまった。作者は、スペインのマドリッド在住の元精神科医。他に9冊あるが、いずれの作品も現実と虚構、夢、狂気、記憶などを題材に、マジックリアリズムの手法でミステリアスに語られているらしい。

 読み終わってもなにやらわからなかったので、『翻訳者あとがき』を読んだ。これがまた本文の続きのような形であったが、本文の仕組みが分かると共に、ミステリの歴史やテクニックまでが分かりやすく、ユーモアたっぷりで面白かった。
 だが、この小説は私には把握しきれなかった。哲学に関心はあれど理解力が足りず消化不良だった。

 イデアとはプラトン哲学の中心概念で、理性によってのみ認識される実在。価値判断の基準となる、永遠不変の価値。実在とは、観念、想像、幻覚など主観的なものに対し、客観的に存在するもの、またはその在り方。




竹取物語




2005/10/15

 一千年前の作者不明の物語に、ノーベル賞作家の現代語訳と傑出した芸術家の作品、そして日本文学の研究に一生を捧げたジャパノロジストの翻訳が渾然一体となり生み出された、大人のための「竹取物語」。
  川端康成氏が現代語訳を、
  ドナルド・キーン氏が英訳を、
 大好きな宮田雅之氏が挿画を担当している。
さすがに優雅さと読みやすさの現代語訳だ。
英語がこれほど苦手でなければ英訳も読んでみたいところ。



ロビンソン・クルーソーを
探して



高橋 大輔

新潮社




2005/10/7


浦島太郎は
どこへ行ったのか


 「ロビンソン・クルーソー」は幼い頃、マンガで読んだ。生きる為の知恵が豊富で、小屋の周りの柵に、猛獣が襲ってきても大丈夫な工夫が凝らしてあったのが印象に残っていて、ワクワクしながら読んだ記憶がある。この著者のように真似をするほどではないけれど。
 専業主婦になって時間ができた時、ウチにある文学全集を読んでみた。子ども向きでないのは、宗教色が濃く、意外な印象だった。

 著者はふとしたきっかけで少年時代からあこがれてまねごとをしていたロビンソン・クルーソーが架空の人物ではなかったと知る。それは著者の心をとらえ、熱くさせ、支配してしまった。そしてロビンソンの実像である実在したアレクサンダー・セルカークなる人物を追って旅に出て、情報を集めた。船乗りとして文明社会から旅立ったセルカークが、不運にも何の知識も無いまま、人も住まない絶海の孤島で、どんなふうに、何を食べ、何に悩み、何を発見し、どうやってその環境に適応していったのか?それを知るために、著者は島(ロビンソン・クルーソー島)に渡って、実地に歩いて、少年時代から憧れたロビンソン・クルーソーの生活に挑戦をしてみた。
 その後は、イギリスへ渡り、セルカークの子孫に会い、セルカークが使った船員用木箱を博物館で見るなど、徹底的に実像を掘り起こしていった。300年も経っていて、資料を探すにも、人に話を聞くのも困難な中、何年もかけて追いかけた執念はすごい。今は無人島ではないけれど、それでも仕事の休みをとって、絶海の孤島に行くだけでも大変だ。この本の出版の後かもしれないが、とうとう、島で、セルカークが生活した後を発掘したらしい。


 46回青少年読書感想文コンクールの課題図書に選ばれている。



科学者は妄想する

久我 羅内

日経BP社



2005/10/6
 
 最近読んだ「ハイドゥナン」では、マッドサイエンティストたちがまだ定説でない理論を実証しようとする場面があって熱い研究者の様子を描写していたし「デセプション・ポイント」も、実現してほしいテクノロジーを使ったりしていたので、科学者が既成の概念にとらわれず、つまり妄想するほど発想をおもいきり伸ばしたら、何が出てくるんだろう、というのが関心を持った理由。

 正統派科学とも、トンデモ科学とも、どちらともつかない微妙なグレーゾーンの諸説は面白い。何十年もの未来には実用化される技術も含まれているかもしれない。発想したときにはトンデモだったかもしれない静止衛星や宇宙エレベーターのように。

 温暖化を避けるために、地球をもっと外の軌道に移動させようという博士の話や、超能力や心霊現象を科学で解明しようとする博士の話、真面目な博士たちの妖しい研究の数々に驚かされる

 本書の記事の元になっているのは、著者が配信するメルマガ「奇天烈科学・飛んでる博士列伝」掲載のニュースだそうである。



文学刑事
サーズデイ・ネクスト
 
2

さらば、大鴉


ジャスパー・フォード

田村 源二 訳

ソニー・マガジンズ





2005/9/21


 前作での活躍で超有名人になった文学刑事局のサーズデイは、インタビューやTV出演に忙殺される日々。ランデンとの結婚生活に満足して生活していたのだが、ゴライアス社&クロノガードによって彼は根絶されて、記憶の中にしか残らなくなってしまう。

 何度も命を狙われて、間一髪の所で元時間警備隊員の父さんに助けられたものの、その父さんからは地球がピンクのねばねばになって滅亡してしまうと教えられ、原因を探りはじめる。

 サーズデイの仕事は前作のように本の中に入って、派手に立ち回りをして悪党をやっつけ、文学作品を守ることだと思い込んでいたが、どうも今度は様子が違う。

 
ブックワールドという本の世界があって、作中人物たちが集まり、ジュリスフィクションなる保安組織を作って、文学作品内での犯罪行為を取り締まっている。そのメンバーでもある、ディケンズの「大いなる遺産」の中に住む、ミス・ハヴィシャムは高名なブックジャンパーで、サーズデイを大いに助けてくれる。本の中へ入る方法を教わるため、サーズデイは、オオサカへ行き、ミセス・ナカジマに会う。

 後半になると動きが激しくなり、夫、ランデンを救う交換条件のため、エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」の中に閉じ込めた悪党のジャック・シットを連れ出しに行く。ピンチになるとミス・ハヴィシャムに助けられ何度もブックジャンプをする。

 クローンマンモスが闊歩し、ネアンデルタール人が働き、時間警備隊と文学ファンが走り回るパラレルワールドのイングランドを舞台に、ばかばかしいユーモアと深い知識を巧みに同居させたユニークな物語。
 細かい説明がないけれど、たくさんの名作があちこちに顔を出している。「ね・・・・ヒツジの絵をかいて!」こう言った少年が王子様だというくらいは私にもわかった。これを機会にあれもこれもと読んでみたくなった。



文学刑事
サーズディ・ネクスト


ジェイン・エアを探せ

ジャスパー・フォード 著

田村 源二 訳

ソニー・マガジンズ



2005/7/13
 
 舞台は1985年の《もうひとつ別の》現代イギリス。いまだクリミア戦争が終結せず、ゴライアス社なる超巨大企業に事実上支配されている。ウェールズは共産化して独立。タイムトラベル術を会得して自由に行き来できる者たちがいる反面、コンピューターはなく、空の旅も飛行船に頼る。文学が異様な力を持ち、生活の隅々まで浸透している。

 そんな奇妙なズレた世界で、クリミア戦争帰還兵でもある、36歳になる女性サーズディ・ネクストは、文学刑事として活躍する。
 
 文学刑事って何?
文学に関する、不法売買、著作権侵害、詐欺などを摘発する。ところが普通でないのは、犯罪団がジョナサン・スウィフトの文書を「人質」にして「身代金」を要求したりする。直筆原稿は特に至宝のようであって、直筆原稿が変更されたら世界中の印刷された本が変更されてしまうのだ。ディケンズやブロンテの直筆原稿が盗まれてしまった。

 伯父のマイクロフトが本の中に入っていける装置を発明したものだから大悪党が悪用しようとしたり、それを阻止しようと本の中で対決したり、ジェインの愛するロチェスター氏と接したり、ストーリーが書き換えられてしまったりする。
 「ジェイン・エア」の文章、ワーズワースの「水仙」の詩、シェークスピアの戯曲、ほか引用され、文学に詳しい人なら楽しめる要素が満載。

奇妙で、可笑しく、なつかしい。甘く、真面目で、おバカ。元気で、せつなく、苦くて、かわいい。痛ましくも、なごめる、楽しい、元気の出る物語(訳者あとがきより)
 




テロメアの帽子


森川 幸人

新紀元社



2005/9/8
ちょっと変わった絵本である。ーー不思議な遺伝子の物語。

 私たちの体や生命を維持する基本物質、遺伝子、染色体、DNA、塩基・・・・・ゲノム。その性質やふるまいは、クレバーだったり、コミカルだったり、おどろおどろしかったり、かわいそうだったり、まるで、独立した生き物のようです。私たちの体の中のことなのに、あまりよく知らないゲノムの世界。
 本書では、このゲノムが一人のキャラクターとして登場、彼自身のことや彼が住む不思議な世界を紹介してくれます。(表紙扉の言葉より)

 細胞は、生涯に分裂できる回数が決まっている。タイトルのテロメアというのは細胞分裂の回数を決めるDNAで、分裂するたびに数が減り、寿命を司る。
 象徴的に表現された絵本なので、後ろに「絵本のなぞとき」があり、基礎知識としての言葉の説明もある。
 DNAやクローンやES細胞について、すこし解るようになりそう。



ガープの世界

 上・下

ジョン・アーヴィング

筒井 正明 訳

新潮文庫



2005/8/31



 看護婦ジェニーは重体の兵士と「欲望」抜きのセックスをして子どもを作った。子どもの名はT・S・ガープ。文章修行の為、母ジェニーと赴いたウィーンで、ガープは小説、母は自伝の執筆に励む。帰国後、母の書いた「性の容疑者」はベストセラーになる。

 結婚したガープは三編の小説を発表し幸福な毎日を送るが、妻ヘレンの浮気に端を発した自動車事故で一人の子どもを喪い、ガープ夫妻も重傷を負う。女性に対する暴力をテーマに傷ついた心と体を癒しつつ書いた小説は全米にセンセーションを巻き起こした。一躍ベストセラー作家となったガープは悲劇的結末への道を歩みだしていた

 途中で何度もやめようと思った。ベストセラーだというのに。

 ガープが生まれるいきさつの珍奇さ、母親のユニークさ、なんだか馬鹿馬鹿しいような、でも、リズミカルで平易な言葉と文体でユーモラスに日常生活を描いているので、「次がどうなるか知りたくて」読み進めた。
 
ガープは主夫で作家。ガープの奇矯ぶりにはあきれる。無謀運転手はいないか、ガスは漏れていないか、ガープの子どもを守るという強迫観念による行動はこっけいだ。
  それなのに、自分の運転する車の事故でウォルトは死に、ダンカンは片目がえぐられる。妻は若い男のペニスを噛み切る。悲惨な交通事故が逆にコミカルに感じられる。
 事故のあと、ウォルトについて語るまでの話の持って行き方は上手いと思った。となりの風呂を使う音、子どものときのウォルトとの風呂の思い出、事故の時のダンカンの怪我、ヘレンの叫び声、音がない!、ウォルトは〜・・・。
 ガープの奇想天外な生涯とその周りの人たちが織りなす、暴力とセックスと安っぽい笑い。これが現代アメリカ文学なのかと思うと、ちょっとつきあいきれないな、というのが本音だった。

 映画では、ロビン・ウイリアムスがガープを演じている。



統治崩壊


江上 剛


光文社





2005/8/26


 合併で誕生した大日朝日銀行は、旧大日頭取と旧朝日頭取の権力争いが起こったり、行内の融和は進んでいない。

 
 広報部リーダーの峰岸貴之の所に暴力団がからんだ未回収の不正融資50億円について告発があった。旧朝日の檜垣会長が新宿支店長時代に女性スキャンダルにからみ「山根商会」に融資を始めたものだった。旧大日の若宮頭取は不正融資疑惑を利用して旧朝日の人間たちを追い出そうと謀る。銀行トップは峰岸貴之に、タスク・フォース(機動部隊)作りを命じた。
 企業舎弟山根商会の竹岡に融資金返還請求を出した。怒った竹岡は債権不存在で告発してきた。地検の強制捜査が入り、支店長が逮捕され、続く、檜垣会長も逮捕される。保身に走るトップには見切りをつけ若手が未来に向け立ち上がる。
 
 銀行のトップはこんなに情けない人間ばかりなのか、預けた大事なお金はこんなところで融資にまわり、回収もできないのかと思うと、もう信頼できなくなる。

 あとがきで著者が49歳での早期退職の時のことを書いている。小説本文よりも中身が濃い感じだ。
 



東京ゴールド・ラッシュ

ベン・メズリック

真崎 義博 訳

アスペクト



2005/8/25

 原題は「醜いアメリカ人」――ヘッジファンド・カウボーイズ日本来襲!3分間で600億円荒稼ぎの全記録――
 バブル崩壊後の日本を舞台に、ヘッジファンドで荒稼ぎをする米国人トレーダーたちの姿を描いた、実話に基づく小説である。
 ニュージャージーで育ったジョン・マルコムはプリンストン大を卒業したあと金融会社の日本支社に雇われる。大阪を手始めに、上司に相場師として鍛えられながら実力をつけていく。
 日本はガイジンにとってユーザーフレンドリー。日本に在住するアメリカの金融関係者が、歌舞伎町、六本木の性風俗に出入りする生態も描いている。
 香港のハンセン指数にからむ先物取引や、阪神大震災直後の日経先物でのニック・リーソンの敗北と、ベアリングズ銀行の倒産も詳細に描かれている。
 最後にマルコムは日経指数に新しく採用されるハイテク関連株と削除される巨大企業株の入れ替えに絡み、3分間で600億円も稼いだあと、日本人妻とバミューダで優雅に暮らす。
 日本には金儲けのチャンスがそんなにあるのか、日本は簡単に手玉にとられているのか、荒稼ぎをされたら、どこがその分の損をしているのか、いろいろ気になった。



ダ・ヴィンチ・コードの「真実」

ダン・バースタイン 編

沖田 樹梨亜 訳

竹書房



2005/8/23
 
 著者は「ダ・ヴィンチ・コード」を読んでみたら、面白くて一晩中読み続けた。そして、知的好奇心でいっぱいになり、何が真実で何が虚構なのか、どれが裏づけのある説でどれが単なる作者の想像なのかを知りたくなった。そして、同じ興味や好奇心をいだいた人のために本にまとめたという。ありがたい、自分で調べなくて済む。

 ダン・ブラウンのインタビューも収録されている。

 「ダ・ヴィンチ・コード」―ーー検証Q&Aによると、
オリンピックの公式マークが五芒星に決まりかけていた・・・?世界中のどのミツバチの巣を調べても、雌の数を雄の数で割ると黄金比になる・・・?MONA LISA が AMON L'ISA のアナグラムである・・・?教皇クレメンス五世とフランス国王フィリップ四世が企てたテンプル騎士団の壊滅作戦が、1307年10月13日の金曜日に始まったため、今も、13日の金曜日が不吉な日になった・・・?組織神学研究所は膨大な量のテキストをデジタル処理し数百テラバイトのデータをスキャンできる・・・?

 他にもたくさん、検証しているが、それだけ「ダ・ヴィンチ・コード」で、学説、仮説、伝承、伝説、噂まで、題材として使われていたということで、難しくもあり、楽しみもあり、好みが分かれたところだろう。
 



人間になれない
子どもたち




清川 輝基


竢o版社



2005/8/10

 長くテレビ報道に携わり、子どもの問題と向き合ってきた著者が、現在の日本の子どもの状況を提示し、危機の実相に迫り、それを克服する手がかりを提供しようとしている。

 背筋力低下の子が増えた。視力が衰え、自律神経にも異常が見られる。「土踏まず」が形成されていない。指の能力も低下。「ゲーム脳」と呼ばれる脳の状態になっている。自分の行動を制御するとき、人格の発達・成熟による「内なるブレーキ」でなく、外的強制『暴力』『食事・小遣い』による「外からのブレーキ」になっている。
 これらは、外で遊ばず、テレビやビデオ、テレビゲームに熱中し、エアコンの効いた室内に一人で、からだも使わず過ごしていた影響ではないか。

子どもの脳やからだの諸機能の発達には、それぞれ臨界期がある。その時期を過ぎるとやり直しがむずかしくなる。

60年代、高度経済成長が始まり、日本人はひたすら豊かさを追い求め、快適で、便利で、安全な暮らしをめざした。けれども、皮肉なことに、それが子どもの心とからだの発達にはよくなかった。生活様式の変化や、人口環境がもたらす異変など、『人間になる』ための場所が消えてしまった事も大きい。

 人間は『人間になる』生き物である。そのためにも、母子カプセル型の孤独な子育てに追い込まれている母親と子どもを、虐待と『メディア漬け』育児の危険から救い出さなければいけない。

テレビを消そう。外へ出よう。



ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男
文芸春秋


2005/8/8


 1943年・アリューシャン列島。アッツ島の守備隊が全滅した日本軍は、キスカ島からの全軍撤退を敢行。島には「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」の4頭の軍用犬だけが残された。・・・から始まる物語。
 

 どう、受けとめたらいいのか、戸惑ってしまう本だった。

 犬の物語でもあり戦争の記述でもある。戦争を背景にした、戦争に翻弄された、犬の歴史なのか。

 「・・・・だ。・・・・だ。」という短い文で、たたみかけるように表現していくのが、時に乱暴に、時にうるさく感じてしまう。
 彼独自の文体なのだろうか、馴染めない。

 戦争や出来事の表層をササーッとかすめるように、箇条書きしたように並べていくのに平行して、犬の繁殖と死の歴史をからめて羅列していくだけの犬の残酷物語のように思えた。二十世紀の戦争を一通りなぞっていくのは、フォーサイスの「アヴェンジャー」で読んだばかりだったので、戦争の扱い方は人によって違うのだと改めて感じた。
 直木賞候補だったらしいが、何が認められてのことだろうか。




前田建設
ファンタジー営業部

前田建設工業株式会社

幻冬舎



2005/8/3
 なんとも夢のあるプロジェクトである。前田建設の宣伝をするつもりはないけど、人に知って欲しくなる。
 「ゼネコン」と言う言葉のイメージの悪さを何とかしたい、建設会社とはどんな仕事をしていて、何に知恵を絞ってお金を稼いでいるかを知ってもらいたい・・・・というところから出発したらしい。

 A部長、B主任、C主任、D職員達の会話のやりとりがユーモラスで楽しいことと、アニメの映像で見たとおりに造り上げようとする努力が素晴らしい。それと、とにかくアニメに詳しい。

 プロジェクトの一番目は「マジンガーZの格納庫」を造ろう。メンバー5名はほぼボランティアで、各部署のプロフェショナルたちの技術者魂を刺激し、専門的で面白いアドバイスも得て設計図を完成し、とうとう正式な見積書を作った。発注されれば本当に造ることができる。
 〈汚水処理場型マジンガーZ地下格納庫一式〉72億円。
    〈工期〉  6年5ヶ月
このプロジェクトの発足から見積もり完成までは、前田建設のホームページで随時紹介されていたが、それらをまとめたのがこの本。
  http://www.maeda.co.jp/fantasy/ ファンタジー営業部

 以下は本の内容ではないけれど・・・・・・・・

プロジェクトの二番目は、銀河鉄道999編で
〈メガポリス中央ステーション銀河超特急発着用高架橋一式〉37億円    〈工期〉  3年3ヶ月
現在はプロジェクト三番目マッハGoGoGo又はグランプリの鷹 編で、
グランバレースピードウェイ新設工事らしいので、また楽しみである。



母への詫び状

新田次郎 藤原てい 
の娘に生まれて

藤原咲子

山と渓谷社



2005/8/2


 母ていさんの書いた満州からの壮絶な引き揚げ体験を記したベストセラー小説「流れる星は生きている」の中の咲子ちゃんであったことがどんなにか辛かったのだろう。「いつも必死、肩張って、眉間にシワよせて、おこっているようにガンバッテいる」と父親にはみえた。優秀な兄たちと比べられ、母に愛されてないと思い込んで反抗した少女時代、感受性が強かったのだろう。

「まだ咲子は生きていた・・・・」の繰り返しの表現を曲解し傷ついた少女期、そしてほとんどの乳児が置き去りになったり埋められた状況の中で「この子は生きている」というのが母自身の感動の言葉であったと大人になってやっと気がつくまでの苦しみ。

 母ていさんが認知症になってからは親子の間に笑顔が生じた。もし、母が認知症にならなかったら笑顔はなかったかもしれない、と考える。その娘の笑顔を得る為に母自らが認知症に踏み込んだのではないか・・・「娘の私が、温かい気持ちを育てること、培う努力もなく気持ちを開かないことに、母は心を痛め身を挺し命を賭けた」とまで考えるようになった。

 それに比べ、私はなんとのんきな、屈託のない子ども時代を過ごしてきたのだろう。感受性の違いかもしれない。 咲子さんは少し年上だが、中学の家庭科では私も毛糸の靴下を編み、浴衣も縫った。同じ事をしたんだなあと思い、「キンダーブック」も記憶にあって懐かしかった。




真珠の耳飾りの少女

トレイシー・シュヴァリエ
木下 哲夫 訳

白水社



2005/7/28
 
 美術ミステリーのホームページで見かけたので、ミステリーかと思ったら違っていた。ただ、フェルメールのことはあまりわかってないそうだから未知の姿を追いかけることの面白さがあるのかもしれない。

 はじめはフェルメールの家に雇われた女中の目を通してその家族や絵を描いていく様子が単調に綴られているだけに思われて、投げ出しかけた。中断した後は、女中のフリートは賢いし、画家の構図の決め方や、絵の具の重ね方などの描写が詳しくて、惹き付けられた。現実に残っている絵と比べながら読むと、よくわかる。

 なぜ、このようなポーズなのか、背景がないのか、などは著者の推理が面白いが、フリートがモデルになっていることを画家も奥様もなぜ若奥様に隠さねばならないのか必然性が感じられなかった。他の子どもたちや他の女中、フリートの家族、画家のパトロンなどの周辺の人物は生き生きしていたが、肝心のフェルメールのイメージが私の中ではっきり浮かび上がってはこなかった。フリートの姿が強かったのかもしれない。



養老孟司・学問の格闘

「人間」をめぐる14人の俊英との論戦



日経サイエンス編

日本経済新聞社

2005/7/27

 この本は、「日経サイエンス」連載中の「脳の見方、モノの見方」の中から14編を選んでまとめたもので、考古学、文化人類学、行動遺伝学、心理学などの第一線の研究者14人と養老孟司教授の知のバトルが楽しめる。

 1ーネアンデルタール人と現代人(奈良貴史)、2−神殿遺跡の発掘と保護(関雄二)、3−語彙からとらえる事物のとらえ方(井上京子)、4−素質を生かす環境を求めて(安藤寿康)、5−脳の像に「こころ」を見る(百瀬敏光)、6−視覚はどうなりたっているか(田中啓治)、7−鳥の聴覚と人間の聴覚(森浩一)、8−ナメクジで探る嗅覚の謎(木村哲也)、9−細胞死が保つ生命の秩序(田沼靖一)、10−ウイリアムズ症候群と言語習得(正高信男)、11−自我と意識に関係する脳機能(澤口俊之)、12−目撃証言と記憶の落とし穴(仲真紀子)、13−トラウマとどうつきあうか(崎尾英子)、14−人はなぜ超常現象を信じるのか(菊池聡)

 3 の井上教授との対談の中の、クワガタムシの数え方に驚いた。昆虫の論文ではチョウも含め、一頭、二頭と数えるのだという。

 7 昆虫が、あんなに小さな脳でもちゃんとやっていけるのは、脳が単脳型になっているからで、機械にたとえれば、昆虫の脳はワープロ、人間の脳はパソコンという感じがする、と。

 不可解なヒトの脳の研究についての話題が興味深い。



第四間氷期



安部 公房





早川書房


2005/7/25
 
 昭和33年7月から雑誌「世界」に連載された。その当時の日本には、まだSFというジャンルが存在してなく、少年冒険読物としてSF的な作品が書かれてはいたが大人の文学として認められていなかった。そこへ日本における最初の本格的長編SFとして純文学作家によって書かれた記念碑的作品。
 
 予言機械が作られる。未来の政治予言では困る政府の為、個人の未来予言実験を行うことになるが殺人事件に巻き込まれてしまう。死人の思考を電子粒として再現させ犯人を探そうとするが事件は意外な展開へ。
 3週間以内の中絶胎児を買い取り、水棲人間を飼育している団体が浮かび上がる。
 第四間氷期が終末を迎え、現在の陸地のほとんどが海中に沈む悲惨な未来社会を予言機械が描き出す。水棲人間はその対策だった。

 科学的専門的知識がふんだんにとり入れられ科学的に堅固に構築されたSFである。氷河が融けて海面が高くなるとか、まだ珍しかったコンピューターのプログラミングなど、半世紀近く前に書かれたとは思えない内容に驚く。
 




テン・カウント

F・X・トゥール

東 理夫 訳

早川書房


2005/7/19


 原題は「ROPE BURNS」、アカデミー賞主要4部門受賞した映画「ミリオンダラー・ベイビー」の原作である。
 著者はトレーナーあるいはカットマンとしてボクシング業界では知られている。闘牛士をしたり、バーで働いたり、結婚、離婚をくり返し、五十歳近くになってボクサーを志したという変った経歴の持ち主である。七十歳にして本書で作家デビューした。

 まず、プロローグのエッセイで、ボクシングという魅力ある「魔法の世界の一員」だと語る。そして短編六編からなる。

「ミリオンダラー・ベイビー」では、ベテラントレーナーのフランキーの所へミズーリ生まれのマーガレット・メアリーが訪れ、教えを請うところから始まる。はじめは相手にしなかったが、メアリーの熱意にほだされ教え始め、マネージャーも引き受ける。彼女は連勝を続け、100万ドルを稼ぐまであと少しになるが・・・・。
 後半は、脊髄を損傷して身動きのとれなくなったマギーの尊厳について考えさせられる。
 どの物語も悲しい。自己鍛錬の成長ぶりは読者にある種の快感を与えてくれるが、ささいなことで簡単に破れてしまうことも教えてくれる。ここにはアメリカの夢と挫折がある。ボクシング小説ではあるけれど、アメリカの現代を描いた小説でもある。

 映画を見た後、著者の経歴を書いたものを読んだので、原作に興味がわいて読んでみた。原作がいいものだったから映画もあれだけの感動を与えるものになったのだと思われた。



国家の罠


外務省のラスプーチンと呼ばれて


佐藤 優 著

新潮社



2005/7/11

 鈴木宗男といえばニュースやワイドショーで見聞きした時は、絶対クロだと思った。だけどこの本に出てくる鈴木宗男と佐藤優は、ただひたすら国を思い、国のために働いた、ありがたい人に思えてくる。そう思わせられるのは著者の文章のうまさか、表現の力だろうか。それともそれが事実だったからなのか。
 外務省というものは外国と虚虚実実の駆け引きを凝らし、国益をはかっているのだ、という様子があぶりだされている。
      第3章      作られた疑惑
    第5章    「時代のけじめ」としての「国策捜査」
 鈴木氏が国策捜査のターゲットになった理由は、今は必要とされなくなったタイプの政治家だったからだという。
 基本的な構造は、政治の力をカネに替える公平配分。小泉路線は新自由主義的な傾斜配分路線を走っているので鈴木さんは時代に遅れた点。
 国際協調的愛国主義から排外主義的ナショナリズムへの外交路線の転換が、北方領土問題で妥協的姿勢を示したとして糾弾されることとなった点。この2つだと著者は分析する。 
 国策捜査のターゲットになると、まず助からないそうだ。

著者は、逮捕されて、検察の描くストーリーを呑まないため勾留期間は長くなるが、独房で読書に励み、思索を重ね、また検事と不思議な心の交流もあり、常人の知ることのない世界を描いていて大変興味深い。私には政治のことがわかっていないせいか、うまくまとめきれなかった。でも非常に面白かった。

ラスプーチン――――日本では、ロシア皇室を背後で操りロシア帝国を崩壊に導いた「怪僧」、ロシアでは民衆の声を体現した平和主義者という見方もある。




「老い」と暮らす

安田 睦男 著

岩波書店



2005/7/10
 親の介護はどのようにしたらいいのだろうか。老人ホームとはどのようなところなのだろうか。親を老人ホームにあずけるということは・・・・・・・。
 新聞記者として高齢者問題などを長年にわたって取材してきた著者は、定年退職後、ぼけてきた母の介護のために「主夫」となる。その後、母は老人ホームで生活し、自らは別なホームの職員となって、数多くの老いた人、ぼけた人、細やかな介護をしている人たちに出会う。
 自分の家での、また老人ホームでの、この7年間の体験をやわらかいタッチで描きながら、「老い」をかかえての生き方、暮らし方を問いかける一冊。(表紙扉の紹介)

 家族が老親の介護をするのが望ましいには違いないが、家族だと24時間心の休まる時がない。ホームでは、お世話をする人は、勤務時間が終れば帰れるだけに優しく接することができる・・・・・と言う部分では考えさせられた。

 少しずつ、老親介護について考えていこうとおもう。




最後の一葉」はこうして生まれた

O・ヘンリーの知られざる生涯

齊藤 昇 著

角川書店



2005/7/6
世界中で最も知られている短編小説「最後の一葉」は、どんな文学背景をもつ作品なのか?それらを生み出したO・ヘンリーとはいったいどんな作家だったのか?100年を経たいまもなお、誰からも愛され続ける珠玉の短編群を生んだ作家O・ヘンリーの創作の謎と、獄中から作家へと転進したその波乱万丈の生涯を描く、日本で初めての本格的評伝。

 O・ヘンリーの筆名の由来は、さまざまで定説がない。新聞の社交欄のあった平凡なヘンリーを選び、最も呼びやすいアルファベットのOをファーストネームにした。可愛がっていた野良猫の呼び方。看守長のオリン・ヘンリーにヒントを得た。カウボーイの歌の1節「ヘンリー、おお、ヘンリーと言いながら」に由来するという説などがある。

 作品の大多数は2000語内外の短編で、発端、読ませどころのヤマ場、事態の転換と「O・ヘンリー・サプライズ」と呼ばれる意外性のある結末などの構成がうまく、読者の心をとらえた。「決め手」ともいえる「どんでん返し」には、ユーモア、ペイソス、ウィットがみられる。
 卓抜な構成とともに、一見平明簡潔な日常的表現の背後に密度の濃い人間愛を示している。
 「賢者の贈り物」「赤い酋長の身代金」「少年と泥棒」「警官と賛美歌」「手入れのよいランプ」 など



神狩り2 リッパー



山田 正紀


徳間書店





2005/7/4
 山田正紀は長編、短編合わせて140編以上もの著作がある。SF、冒険・アクション、ミステリ、ほか。ところが、今まで1度も読んだことがなかったので、傾向や特徴になじみがなくて、読むのが正直しんどかった。はっきりいってわからなかった。
 前作「神狩り」は作者24歳の時のデビュー作で衝撃的だったそうだ。30年後の続編は・・・。

 黙示録について、聖書について、脳科学について、言語論について、ホロコーストについて、脳とコンピューターについてなど詳しく論じられている。だけど、それがナンなの?としか思えない。
 登場人物は、古代文字研究の島津圭助、娘の如月理亜、ヤクザっぽい学者江藤貴史、学者っぽいところのあるヤクザ安永学、刑事西村、牧師富樫。ナオミとフェアレディZと左門字。
 大団円に向かって時を行ったり戻ったり、「神クオリア」を感触できる者であればこの亜空間をたどって、はるかメタ階層まで到達することが出来る、最後のマリアたちは「神」を射抜く弾丸になれるか・・・・最後まで消化できなかった。
 
 新聞での紹介(小谷真理)―痕跡がありながら、なかなか到達できない「神」。30年前は「言語」が神をつかまえるカギだったのに対し、今回は脳内に特殊な領域が作り出される現象から「神」をつかまえる方法論を模索していく。

 追記
 《乱読書庫》さんのところで、詳しく解説がなされ、理解の助けになります
 



スキップ


北村 薫 著

新潮社




2005/6/14
 一ノ瀬真理子が、一眠りして気がつくと、娘も夫もいる42歳の桜木真理子に早送りされていた。つまり心は女子高生なのに体はおばさん、これってものすごくむごい。
 娘の美也子さん、夫らしき桜木さんのサポートで、17歳の真理子は42歳の真理子のしていた高校教師の仕事をしていくことのなる。
 国語教師をしなければならない真理子の為に同じ国語教師の桜木さんが講義をする場面で、真理子の国語授業はとても魅力があったと語る桜木さんの様子が、どれほど真理子に魅かれていたかや大切に思っているかを感じさせ、ジーンとくる。

 高校での教師の仕事の内容は詳細で、少しずつ適応していく真理子の頑張りと賢さが清々しい。周りの高校生たちも感じがよい。北村薫らしさというのか、読みながら顔がほころぶようなユーモアが随所にある。上手いと思ったのは、現在の真理子が便利な電化製品や印刷機などを見ては昔の自分の知っていた時代の物と比較するところ。同じ世代の私にはそのままわかる。ギャグまでわかる。
 こんな特殊な例でなくても、私は日常の生活の中で、昔はこんなふうだったが今は・・・と考えることが多くなってきた。

 ぼんやり流されないで今を大切に生きようと言うことを強調した物語。ネットで会話文が誰のものかわかりにくいとか、途中で挫折しそうになったと言う感想を見かけた。読む人の世代によっては注釈がないとわからない、時代の差があるのではないかと感じた。
 私は考えさせられることが多くてとてもいい本だったと思う。



さおだけ屋はなぜ潰れないのか?

山田 真哉 著

光文社新書



2005/6/11
 身近な疑問からはじめる会計学――さおだけ屋を使って説明するのは利益の出し方、ベッドタウンに高級フランス料理店が存在できる謎で説明されるのは連結経営。自然食品店の在庫の山をみたら在庫と資金繰りの話。完売は怒られるという機会損失と決算書の説明。

 それらの解説の中に、生活の上で数字とのつき合い方も含まれる。
 スーパーの買い物で10円単位をケチったりするのは、節約した気になっているだけで会計をみていない。
 1年中バーゲンのわけは、在庫減らしの工夫、例えば、福袋、店長のオススメ、新装開店セール(在庫一掃セールの残りもある)など。
 数字のセンスについては、50人に一人がタダ、これからなにを連想できるか、ひらめくか、という問題で、わたしには数字のセンスのないことがわかってしまった。
 読むと、なるほどということばかりだった。
 「どうすれば物事を的確にとらえることができるようになるのか?」ということにチャレンジし続けているのが「会計」という学問なのだという。会計学に興味があれば読んでみるとよいのでは?
 




覆面作家は二人いる

北村 薫 著

中央公論新社



2005/6/10

「推理世界」の編集者・岡部良介が担当する《覆面作家》は執事のいる豪邸に住むお嬢様、新妻千秋。天国的な美貌と可憐な性格、そして稀にみる明晰な頭脳の持ち主だが、家を一歩出ると、借りてきたネコがサーベルタイガーに変るほど人格が変ってしまうのだった。
 
 殺人現場から消えたクリスマス・プレゼント。あっけなく解決したかに見えた誘拐事件。万引きが急増するCD売り場。良介と千秋の迷コンビが身近にある謎を解くほのぼのミステリー。

 会話がユーモラスで、しばしば「ふふっ」と笑ってしまう。良介の受けの雰囲気が心地よい。
 
 短編で文章が軽くて読みやすい、文章を読みながらこんなに軽く書けるのは若い人なんだろうかと思ったが、私よりも年上だったのでちょっと驚き。
 
 《覆面作家》シリーズは三部作で他に、「覆面作家の愛の家」、「覆面作家の夢の家」がある。




死のサハラを脱出せよ 上 下

クライブ・カッスラー 著

中山 善之 訳

新潮文庫




2005/6/8
クライブ・カッスラーのダーク・ピット・シリーズ第十一作である。ピットと相棒のアル・ジョルディーノはNUMA(国立海中海洋機関)の特殊任務にあたっている。特に困難な任務は提督とよばれるサンデッカーNUMA長官から二人に依頼される。
 
 果てしなく増殖してゆく赤潮。マリの将軍と結託して事業の拡大に腐心するフランスの悪徳実業家。
 ピットは川を遡上し汚染源を探し、汚染物質も発見するが実業家に捕らえられ金採掘の地獄のような所へ送られる。そこには世界保健機関の調査団の科学者たちも捕らえられ、強制労働を科せられていた。
 死神だけが待つ広大な砂漠の脱出行こそがピットの宿命となった。合衆国大統領が動き、国連事務総長も動く。援軍とともに科学者たちを助けに戻り、旧外人部隊の砦にたてこもる。数千名のマリ軍との苛烈な闘いが繰り広げられる。敵が悪いヤツだとはいえ、派手に人が死んだり、爆薬で跳ね飛ばされて、大量に人が死んでいくのは気にかかる。

 ピットとアルは何度捕らえられても巧みに逃げ、絶体絶命の危機からひらめきと粘り強さで窮地を脱する。敵の大事な車で逃げ出したり、偶然遭遇した砂漠の墜落機からサンドヨットを作って走らせるなどは面白い。そして歴史的謎が偶然からも解明されていく。

 砂漠に埋もれた、1985年アメリカ南軍の甲鉄艦。1931年行方不明のオーストラリアの女性飛行家。
 これらの謎とピットの活躍が結びつくわけだが、たくさんの要素を詰め込みすぎじゃないかと感じた。
 面白い冒険活劇ではある。



カードミステリー
失われた魔法の島

ヨースタイン・ゴルデル 著

山内 清子 訳

徳間書店



2005/6/5
夏、北欧からギリシャへ、美しい母を求める息子と父は旅に出た。途中、ルーペと小さな「魔法の本」を手にしたハンス・トマスは父に隠れて本を読む。
 物語は入れ子細工の箱のように展開していく。パン屋の老人がくれたパンの中に豆本はあった。魔法の本によると、パン屋の老人アルベルトは、ドイツを出てドルフの村にきたルードヴィヒに前のパン屋ハンス老人から聞いた魔法の島の話を聞かせる。島にはフローデという老人とトランプたちがいた。
 ハンスじいさんが遭難してフローデと出合った時が52年目のジョーカーゲームの日だった。読み進むうち、ハンス少年は自分の旅と魔法の本の話がつながっていることに気づく。
 
「ガリバー旅行記」と「ニルスの不思議な旅」と「不思議の国のアリス」の面白さを合わせ持っている、とノルウェーの批評家がいっているそうだ。それに、家族の絆、哲学など盛りだくさんな要素があり、複雑で、簡単に理解しにくいが終わりに近づくにつれジグソーパズルのピースを埋めていくように話が繋がっていくので面白い。
「ソフィーの世界」に先立って、「ほんとうに面白い小説」として欧州各国で話題になった。
 ノルウェー批評家連盟賞、ノルウェー文化庁文学賞受賞。
 


語り女たち

北村 薫

新潮社



2005/5/29
 
本名=宮本和男。昭和24(1949)年12月28日、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中よりミステリー評論などを手掛ける。卒業後は高校の国語教師。『空飛ぶ馬』で作家デビュー。平成2年、「夜の蝉」で第44回日本推理作家協会賞短篇部門を受賞。「日常の謎」を主体とした作品群で、独自の地位を築いた作家。
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 海辺の街に小部屋を借り、潮騒の響く窓辺で寝椅子に横になり、訪れた客の話を聞こうとする彼。語り女は全国の雑誌、新聞に広告を載せ募集した。
 次々と女性が訪れては、不思議な話、変った話が語られていく。アラビアンナイトのように。

 「笑顔」が印象に残った。男性から女性へのプレゼント、女性からのリクエストの始めは《朝飯前》次は《今更》次は《海鳴り》工夫を凝らしたプレゼントが続く。そして《笑顔》-----そのあと「笑顔になってくれたらいいけど」と言って渡されたものは・・・・・・。かわいいお話でした。
 他にも、味わいのあるお話しが続きます。不思議な世界です。
 131回直木賞候補作


対岸の彼女

角田 光代

文芸春秋



2005/5/28
 132回直木賞受賞作品である。作者は恋愛小説が多いらしいが、これは友情小説といえばいいのだろうか。

 結婚してから専業主婦になっていた小夜子は、子育てに悩んでいた。子供を連れて公園へ行っても、母親同士で上手くいかなくて、場所を変え、娘を抱えて公園を彷徨う公園ジプシー。それから抜けだしたくて仕事に出るようになった。そこで出会ったのが女社長の葵。同じ大学を出た同年の葵の経営する旅行会社(の中のハウスクリーニング部門)で働くようになる。

人付き合いが下手でいつの間にかいじめられる学校時代の葵。葵の高校時代の過去(ある事件)と、小夜子の、家事育児に理解のない夫、義母との関係、再就職の困難さ等を交互に同時進行で描きながら、葵とナナコ、小夜子と葵の友情を描いていく。
 
 学校時代にいじめられた経験があったり、子育てに悩んだ経験があれば、かなり身近に感じられると思う。
 女性必読の書とまでいう人もあるが、この本をきっかけに考えを深めるきっかけになることはまちがいないだろう。
 


理系白書

 この国を静かに支える人たち

毎日新聞科学環境部

講談社



2005/5/24

 就職には理系が有利、と昔から思い込んできた。息子も理系に進んで「よかった」と思っていたのに、これは幻想だったのかしら。

 「理系人への応援歌」がこの本のモチーフだという。
 「日本の技術がもたらした巨大な富は、技術者ではなく、銀行や不動産の関係者に流れた。技術者は対価が正当に認められるよう、もっと主張すべきだった
 理系出身者は報われない生涯賃金の格差は5000万円にもなり、政界、財界も『トップは文系』が多い。なんという不公平。
 調べでは、学習時間は理系が2時間多い。理系が勉強する分、文系は社会経験に忙しい。大学へ入るにも受験科目が多かった。入ったら実験が多くて実験一日10時間。
 そうまでしてとった博士は、日本では高い専門性は『両刃の剣』となり、就職では不利になる。理系はオタクと思われ、「特定の分野・物事にしか関心がなくその事には異常なほどくわしいが、社会的な常識には欠ける人」と「広辞苑」でもこう定義されている。
 理系のタコツボ的な視野の狭さも改める必要がある。「文か理か」にこだわっている時代ではない。 
 「理系人よ、カラを破れ」がもう一つのモチーフだそうだ。


 私は長い間、理系に進まなかったことを悔やんでいた。理系なら女子も男子と対等に仕事ができると思っていた。でもそう甘くはなかったらしい。


脳のなかの幽霊

V・S・ラマチャンドラン
サンドラ・ブレイクスリー

山下 篤子 訳



2005/5/23
脳というのはまだ不可解領域の多いところ。タイトルと表紙に惹かれて読み始めてはみたものの・・・・・・・・。

「・・脳は他の脳の働きを解明できるばかりか、自己の存在について問いかけをする。私は何者か。死後はどうなるのか。私の心は脳のニューロンからのみ生まれるのか・・・・・・脳が自分自身を理解しようと奮闘しているーーーーーからこそ、神経学はわくわくするほどおもしろい。」
切断された手足がまだあると感じるスポーツ選手、自分の身体の一部を人のものだと主張する患者、両親を本人と認めず偽者だと主張する青年―ーーーー著者が出会った様々な患者の奇妙な症状を手がかりに、脳の仕組みや働きについて考える。さらにいろいろな仮説を立て、それを立証するための誰でもできる実験を提示していく。高度な内容ながら、一般の人にも分かりやすい語り口で、人類最大の問題(意識)に迫り、現代科学の最先端を切り開く!(表紙扉内の紹介)

分かりやすく・・・とはいうものの、やっぱり精読するのは無理なので、興味深い症例だけをさがして飛ばし読みをしてしまった。
解説は養老孟司さんだったので飛ばしたところを補えたかな・・・・と勝手に思う。この本で養老さんはときどき声を出して笑ってしまうのだとか。タイトルのつけ方にも著者のいたずらが感じられるそうだ。(それが分かる人がどれくらい存在するか疑問だが)



単独行

加藤文太郎

山と渓谷社



2005/5/17
新田次郎の「孤高の人」のモデルとなった加藤文太郎の遺稿集である。

 文太郎の死後、彼の上司で彼を山に導いた人物でもある遠山豊三郎を中心に「RCC報告」や「ケルン」などに発表した加藤の文章、島田真之介の後記、花子未亡人の手記、福島功夫の解説などで構成されている。

 小説と違って、文太郎は人並みに神戸、関西の山仲間との交流もあったという。RCCにも入会し、よく交流をしていた。ふだんの但馬山群のスキーツアや神戸背山のワンダリングや岩登りのトレーニングなど、BKVのグループとも行を共にした。
 最後の山行をともにした吉田富久とはすでに「
前穂高北尾根から奥穂」で加藤のほうから誘ってパーティを組んでいた。

 彼の文章は素朴であるが几帳面で、山行の記録は一般人には無理だが、紀行文になると上手に書いている。
 
 吹雪の止むまでここで待とうか。・・・略・・・足でも凍傷にかかろうものならほんとに動けなくなるかもしれない。そうだ全く忘れていたーーー「何のために山に来たのか」ということを。自分は「山と闘うために来た」のではないか。なぜ岩を恐れ、氷を恐れ、吹雪を恐れてこれらの姑息な手段を考えるのか。吹雪の日の涸沢岳の尾根こそ久しく求めて止まなかったところではないか。さあ立上がろう、立上がろうと勇を鼓して吹雪を衝いた。




そして二人だけになった

森 博嗣 著

新潮社



2005/4/25
 
 巨大な海峡大橋を支える〈アンカレイジ〉内部に造られた建物に集まった男女六名。完全密室状態で次々と殺人が起こる。最後に残ったのは、盲目の天才科学者勅使河原潤、とアシスタント森島有佳のそれぞれ身代わり二人。何が起き、何が待ち受けているのか、知的罠を張りめぐらせた〈森ミステリィ〉のシリーズ外の作品。

 どんなからくりを用意しているのかと身構えて読み進んだ。4展開(転回)ある内の1ステップは、身代わりに押し付け本人たちが行方不明ということで「ああやっぱりそうだったのか」と思ったのだが、2ステップは「えっ、そんなあ、無理すぎる設定」と思い、3ステップでは特捜部の宮原を加えそれぞれ3人の手記が並んだところで芥川龍之介の「藪の中」のような構成か?と思い、最終ステップで、「やられちゃった」と、予想外の結末だった。多重人格まで扱うとは。
 いつも設定が凝っているなあ、それと物理法則も意味があったのかな?フーコーの振り子以外はあまり関係がなかったような気がしたのはただ知識が不足していただけ?物理の理論(相対性理論)はこじつけっぽい。まあ、わからなくても大丈夫だと思うけれど。
 あれほど複雑に設定しておいたのに最後は肩透かしのような気がしたが、むしろ森ワールドらしいというべきか否か。
 


「モナ・リザ」ミステリー
名画の謎を追う

北川 健次 著
新潮社

 

2005/4/24
レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた美術史上最も謎めいた絵画といわれる「モナ・リザ」の謎を解こうとする試みである。
1、モデルは果たして誰なのか?  
2、描かれた時期は何時なのか?
3、絵の注文主は実在したのか?  
4、背景に描かれた現実とかけ離れたような幻想的な風景は、何かの暗喩なのか?  
5、下腹部が僅かに膨らんだ妊婦とおぼしきこの女性の着衣が、なぜ黒衣の喪服であるのか?  
6、口元に浮かんだ不気味ともいえる微笑の意味は何なのか?
7、そもそも画家は、この絵に何を描こうとしたのか?
 左右を反転させた「モナ・リザ」とレオナルドの晩年の自画像を重ねると、完全に一致する。この点はホントに驚いた。
 キリストの聖骸布を描いたのがレオナルドではないか、キリストとレオナルドと「モナ・リザ」の三つの像が結びつくという説も面白い。
 著者はレオナルドが「性同一性障害」だったのではないかと推理していく。


マンガの深読み、
大人読み


夏目房之介 著

イースト・プレス


2005/4/22
 著者は夏目漱石の孫、マンガコラムニスト・評論家。BSマンガ夜話で見かけたり、新聞のコラムを読んで、人物に興味を感じて本を読み始める。

 本書では、巨人の星にまつわる関係者の話、あしたのジョーにまつわる話、ともに原作者梶原一騎、作画家川崎のぼるやちばてつや、編集者達の思い入れや哲学が語られる。一緒に熱くなってしまいそう。

 「あの時代、少年マンガが少年だけのものでなくなり、思春期から青年期に広がって、その後の日本マンガの発展につながる。その推力の大きなエンジンの一つが梶原作品だった・・・」梶原夫人との対談より

 「巨人の星」の場合、ヒューマンな作品、野太いドラマ、教養小説みたいなのを作りたい。父と息子もの、スパルタ親父に・・・という思いで作ったとか。「ヒューマン」を梶原氏が飛雄馬の名にした。(初めて知ったが、ひょっとして周知の事実?)

「あしたのジョー」はマンガ青年化の時代を象徴する作品。「思春期・青年前期の課題を、無頼と優しさ、闘争と日常的生活感、二人の女性との関係など、多層的な構造として描きえた強く深い構造にあった」という。
 ふ〜〜ん、そうだったのかぁ、と少年マガジンを読んだ昔を思い出した。

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ネアンデルタール・
ミッション

発掘から復活へ
2000/2/24
フィールドからの挑戦

赤澤 威(たける) 著

岩波書店



2005/4/14
 かつてネアンデルタール人のイメージは表紙のように「盛り上がった肩に、だらんとぶら下がった腕、全身にもじゃもじゃと毛を生やし、いかにも鈍重な、うつろな表情で立つ異様な生き物」だった。最近は、花を添えて埋葬したり、種類豊富な石器を作ったり、炉跡も見つかり炉を囲んで、手ごろに焼けた肉を切り取って食べている団らん風景を彷彿とさせるなど、ネアンデルタール像が変わってきている。
 大人よりたくさん発掘される子どもの化石を研究しもっと実像に迫りたいというのが主旨。

 デデリエ洞窟で発掘された子どもの人骨から、子どもの姿が復活し、歩き、成長していく道程、次第に甦っていくさま「デデリエ・ネアンデルタールの復活」プロジェクトを、紹介している。

 コンピュータで全身骨格を復元、コンピュータにはネジも接着剤もいらない。マウスの操作で自在にデザインできる。
 プラスティネーションで交連骨格に筋肉、脂肪など皮下軟部組織を付け、子どもの生前の立体像の復元作業に威力を発揮する。
 骨のレプリカを作り、子どもの運動機能の復元、つまり生前子どもがどのような姿勢で歩いていたか、もう一つは成長復元をする。
 子どもの名は「ナジャッハ」アラビア語で「成功」。
 年代学と遺伝学にコンピュータ・サイエンスが加わり今後の研究が楽しみである。


進化しすぎた脳

池谷 裕二 著

朝日出版社



2005/4/8
 ニューヨークにいる日本人の中高生に「大脳生理学」をわかりやすく講義したもの。話し言葉で易しい言葉を使って語りかけてくれる。

 「脳の地図」はかなり後天的、脳の地図は脳が決めているのではなくて身体が決めているということらしい。いるかはどんな優れた脳を持っていたとしても、手、足がないので「宝の持ち腐れ」ということ。
 能力のリミッターは脳ではなく身体というわけ。

 ネアンデルタール人とかクロマニヨン人は、進化のスケールから言えば初期的な人類、にもかかわらず現代にも通用するような脳を持っていた。ということは脳というのは進化に最小限必要な程度の進化を遂げたのではなく、過剰に進化してしまった?
 将来いつか予期せぬ環境に出会った時、スムーズに対応できる為の一種の「余裕」「安全装置」「未来への予備」とわかる。

 読んでいて驚いたことは(安心したというべきか)人間はあいまいな記憶しかもてない。でもこのあいまいさが大切だったこと。

 脳にはニューロンというものがあって電気信号で伝えられると今まで思っていたが正確には伝わっていくのは「電子」ではなく「イオン」だった。

 アルツハイマー病にも言及していて最前線の研究をわかりやすく説明している。

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ナラタージュ

島本 理生 著

角川書店




2005/4/6


 作者の島本理生さんは1983年生まれの現役大学生。都立高校在学中に「リトル・バイ・リトル」が第128回芥川賞候補ほか第25回野間文芸新人賞を最年少で受賞するなど若いがすでに活躍している。思春期の繊細な感情や心の痛みを鮮やかに表現する。

 ナラタージュとは映画などで主人公が回想の形で、過去の出来事を物語る事。

久しぶりで恋愛小説を読んだ。主人公は大学生、自分の子どもの年齢。自分がなりきるというよりもその年頃のことを次々に思い出させてくれた。文章がしっかりしていて会話が自然で、一気に読んでしまった。

工藤泉は大学2年の春、顧問の葉山先生に請われ他の友人たちと卒業した高校の演劇部を手伝い始めた。徐々に熱気を帯びる稽古、葉山先生へ募る思慕、好きでいながら応えられない葉山、本番公演、過去の思い出、友人が連れてきた小野君との交際、揺れ動くこころ。
 自制心が強いにもかかわらず弱みを見せて泉の心を惑わせてしまう葉山。
学生の小野の思いを受け容れてはみるが葉山を忘れられない泉。
 理屈ではわりきれない、思うようにならない人の感情をよく捉えて表現していると思う。ラストシーンもよかった。
 たまには恋愛小説を読むのもいいかなと思った。




レジスタンス

江上 剛 著

講談社

2005/3/25
 著者は旧・第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、支店長までなった人。銀行の事をすみずみまで知っている人だから書けるのだろう。
 役員を目前にした支店長の右往左往やセクハラ、貸しはがし、総会屋対策、転職などを扱って、そのなかで必死で抵抗して頑張る銀行員を描いているのだが銀行とはこんなにひどい人たちが集まっているのか、人を陥れてばかりだ、中小企業は銀行にだまされているばかりなのか、と思わされてしまうのは、著者のペースにまんまとのせられてしまったのかもしれない。
 短編なので書きたい部分がはっきりしていてわかりやすい。
 最後の「機械の声」は心にジーンときてよかったと思う。


好色五人女

牧 美也子 著

中央公論社



2005/3/24
 マンガ日本の古典 シリーズは32巻ある。
@古事記 石ノ森章太郎 A荻窪物語 藤子・F・不二雄 BCD源氏物語上、中、下 長谷川法世 E和泉式部日記 萩尾望都 F堤中納言物語 坂田靖子 GH今昔物語上、下 水木しげる IJK平家物語上、中、下 横山光輝 Lとはずがたり いがらしゆみこ MNO吾妻鏡上、中、下 竹宮恵子 P徒然草 バロン吉元 QRS太平記上、中、下 さいとう・たかを 21御伽草子 やまだ紫 22信長公記 小島剛夕 23三河物語 安彦良和 24好色五人女 牧美也子 25奥の細道 矢口高雄 26葉隠 黒鉄ヒロシ 27心中天網島 里中満智子 28雨月物語 木原敏江 29東海道中膝栗毛 土田よしこ 30浮世床 古谷三敏 31春色梅児誉美 酒井 美羽 32怪談 つのだじろう

 出版されると聞いた時から気にはなっていたのに今頃やっと手にとって見た。そうそうたるメンバーが執筆しているのですべての本を眺めてみたいと思う。
 古典は知っているようで本当はきちんと読んでいないことが多く、せめてマンガの形ででもふれてみようと思った。まずは子どもの時から好きだった牧美也子さんの巻から。
 井原西鶴の作品。現代なら起きるはずのない悲劇、武家社会の掟を適用された商人、職人の、それも男社会の不条理にやりきれない女たちの悲劇。五人の女たちのうち、お夏清十郎、八百屋お七の名前ぐらいしか聞いた事がなかった。それぞれの話を短くまとめすぎているのが少し気になった。

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泣き虫 弱虫 諸葛孔明

酒見 賢一 著

文芸春秋



2005/3/16
『三国志』は後漢末、紅巾の乱が起きた184年から司馬氏の晋が成立する265年までの80年の間に起きた出来事である。巷の講談、俗講であった長い話を元末明初の羅漢中(らかんちゅう)が苦労してまとめて小説化したものが『三国志演義』である。
 孔明は今まで「千年に一人の神算鬼謀(しんさんきぼう)の軍師」「智謀秘策の湧き出ずること岳泉の如し」等、いわれてきた。
 三国志の面白さは孔明が劉備軍に入り智謀や奇策で他軍を翻弄するところにあると思ってきた。だが、本書では、これまでの孔明礼賛とは別角度の視点から読者の意表をついてくる。自意識過剰、誇大妄想のあぶない男の屈折した言動が展開されていく。
 劉備が孔明のもとに三度も足を運んだという有名な『三顧の礼』もここまでやるかというほどの巧妙な計算ぶりに解釈される。
 マカロニウエスタンと比較し「荒野の三国志」と書いていたところではあまりにピッタリで爆笑してしまった。
 本書は劉備軍に参加するところまでで終っていて、赤壁の戦いなどの有名な場面での孔明の活躍をどのように裏読みをし奇想天外な解釈をしていくかは今後のお楽しみらしい。
 時代の背景をすでにある程度知っていたり読んでいたりした上で本書を読んだほうが面白さがわかる、この本だけで諸葛孔明や三国時代を知ろうとするとかなり偏ったイメージをつくらされてしまう気がする。
 



アトランティスを
発見せよ

上  下
クライブ・カッスラー 著
中山 善之 訳

新潮文庫




2005/3/10
 カッスラーのダーク・ピットのシリーズは本書で15作目だということだが、今まで知らなかった。他の作品を見ると、タイトルには、タイタニック、古代ローマ船,インカの黄金、コロンブスなど私の好きそうなキーワードが並んでいたにもかかわらず気付かないできたようだ。
 
 紀元前7120年、彗星の衝突によって地球は壊滅的な打撃を受けた。1858年、南極で発見された幽霊船には黒曜石を彫った頭骨が残され、2001年、コロラドの旧鉱山からも同様の頭骨、そして廃坑には銘文が刻まれていた。南極ではナチスのU-ボートが出現したりして調査にむかったビットらが危機に陥る。
 『9000年の昔に栄えた文明があった、大厄災で滅び、一部の生き残った者達が各地に散って技術や文明を後の人に教えた・・・・』という話は、古代遺跡をまわって世界中の不思議を解明しようとしている人たちが書いていることだが、それらを巧く使って海洋冒険活劇にしたのが本書である。氷に覆われる前の南極にはかつて優れた文明があった、というのもそうだ。
 かつてドイツを脱出した旧ナチ勢力のヴォルフ一族が地球に厄災を起こし、ノアの箱舟のように自分たちだけが巨大船舶で生き延びようとたくらむ。
 面白いのだけれど、後半は少し読み疲れてしまった感がある。




モビィ・ドール

熊谷 達也 著

集英社



2005/2/22
主人公は女性の動物行動学者比嘉涼子。イルカの生態調査に従事している。イルカが棲んでいると注目されて観光客が多くやってくる島で仕事をしている。
 ある日、イルカが数頭、浜に打ち上げられるという事件が起こる。原因はシャチらしい。イルカを守る為にはシャチを殺してもいいのか、どうやってイルカを助けたらいいのか・・・・。そのシャチは「モビィ・ドール」と名づけられた。
 イルカやシャチの生態やダイビング技術、自然保護や動物愛護にまつわる問題までたっぷりと書き込まれている。
 シャチがイルカを襲い食べるシーンは残酷にみえて、シャチは『海のギャング』と言われたりもするが、シャチにとっては食餌に過ぎないんだと改めて気づかされる。頭もよくヒトを襲ったという例はないそうだ。
 スキューバダイビングは少しトレーニングをしただけで潜れるようになるのかしら?既に経験のあるヒトならすぐにでも美しい海へ行ってイルカと一緒に泳いだり潜ったりしたくなるかもしれない。

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子どもの情景
秋山 さと子
大和書房
 
大人のために書かれた児童文学のガイドである。私は表面的な物しか読み取れないので、こういう本がありがたい。自分で読み取れなかった部分を補足してくれる。
 既に読んだことのある指輪物語の章を読んでいたら、目からウロコだった。今までの妖精の認識を変えてしまったり、ガラドリエルが理想の女性に描かれていたり、魔法使いの意味することなど私は何も読み取れていなかった・・・・。映画も見たのに・・・。きっと急いで表面のストーリーばかりに気をとられたのだろう。名作はゆっくり付き合わなければ、と思った。

 あとがきによれば、これまでこの種の本に親しんだことのない人にも読んでもらいたい、それぞれの本のあらすじや内容にもかなりのページをさいている。子どもたちに与える良書の解説と推薦ではなく、大人が読んでの感動をおとなの読者に伝えたいということらしい。
 ただし、仏教や宗教学を専攻し、ユング派の精神分析家であるという面からの考察になっている。
 詳しい内容は・・・・。
1章 指輪物語
2章 飛ぶ教室
3章 モモ
4章 ゲド戦記
5章 グリーン・ノウの子どもたち
6章 トムは真夜中の庭で
7章 ロールパン・チームの作戦
8章 ふくろう模様の皿

    2005/2/15


ららら科学の子
矢作 俊彦 著
文芸春秋


2005/2/11
「彼」は30年前、学生運動のさなか誤って人を殺し中国へ密航した。「文化大革命を自分の目で見てはどうか、紅衛兵運動を体験できる」と誘われて。彼が中国に渡った後、文革は終わり紅衛兵たちは下方(国内流刑)された。彼も奥地へ行った。
 30年を経て蛇頭の船で密入国して日本に戻った。30年のブランクのある彼の目を通して今の日本をながめ、30年間の世相の変異に目を向ける。読者は彼と一緒に30年前の自分に戻ったり、その間に失われたものに思いをはせる。
 タイトルと物語に引用した「鉄腕アトム」は「人間とロボットのはざまで苦しんでいるアウトローのイメージ」。反権力を掲げて闘った世代、『彼』、著者と重なる。
 読むにつれて、同世代のせいか30年の出来事の一つ一つがいろんな意味をもって迫ってきた。



金比羅

笙野 頼子 著

集英社



2005/2/3
 ひとことで言えば奇妙な本。まず、「深夜、ひとりの赤ん坊が生まれてすぐ死にました。その死体に私は宿りました。・・」こういう始まり方が嫌いでない、こわい物見たさもあり読み始めた。自伝のようでありながら自分のことを金比羅といい、妄想で包まれた、金比羅の(著者?)の一代記だそうだ。
 「紙の分厚さと本の中に落ちている残酷な世界が、嘘の残酷な世界が好きでした」そして「人の言葉に敏感過ぎる子」だったという子ども時代。
 神道と仏教についてずいぶん勉強してあって、神仏習合などについてユニークな歴史説明がある。奇妙な表現の中に逆説的に物事の本質が述べられていたりする。(ユーモアと痛烈な皮肉と、毒を噴出す哄笑)
 サルタヒコ、スクナヒコナ、オオナムチ、オオクニヌシなど古事記や日本書紀の神たちが出てきたり、お稲荷さん、権現さんなど考えてみたら定義のよくわからない神らしきものも出てきて頭の中でグルグルまわっている。
 破天荒な物語に惑わされ底に流れる基本テーマを見逃してしまっていたので新聞書評から補足――あなたは本当は男なの、男に伍してやっていきなさい、と言われて育ち、本当の男の子が生まれるや、もういいですよと、いわば階段をはずされてしまった女性人物のトラウマ克服、闘いの物語である。




Say Hello!
あのこによろしく

イワサキユキオ 著

ほぼ日ブックス



2005/1/25
 こころさんに借りて読んだ。かわいい犬の写真集だから見たというべきかな。一枚一枚の写真に心のこもった言葉が添えられているので読んだと言いたい。
 ジャック・ラッセル・テリアの母犬ルーシーと三匹の子犬、ニコ、サンコ、ヨンコたちの成長記録だ。
 手で触れるのもこわいほど頼りない状態からハイハイ?したりやっと立ち上がれたり?兄弟たちがくっつき合ったりケンカしたりして大きくなって巣立っていく様子がルーシーの母親ぶりと共に、たっぷりの写真で紹介される。母の存在と命の尊さがしみじみと伝わってくる。
でも、理屈抜きでかわいい―!!

  http://www.1101.com/say_hello/
 

お母さんルーシーに見守られているから無防備に上を向いてぐっすり眠っている




赤ちゃんがヒトになるとき
―ヒトとチンパンジーの
比較発達心理学―
中村 徳子 著
昭和堂


2005/1/23
 ヒトは生まれたときからヒトじゃないかと思われるかもしれない。でもそうじゃありません。生まれてからある時期までは、チンパンジーとヒトの赤ちゃんはほとんど同じように発達します。
 ある時期からヒトにはできてチンパンジーにできないことが起こり始めます。例えばどちらも言われなくても積み木があれば上へと積み上げていけるけれど、ヒトはそのうちに「これはおうち」とか「これはおふろ」とかいって遊べるようになります。チンパンジーは積み上げるところにとどまります。他にもいろいろ。
 動物行動学者である著者が我が子が生まれたことをきっかけにチンパンジーとヒトの赤ちゃんの発育過程を丹念に比較しながらヒトらしさの本質を探ります。
 もう子育てがとっくに終った人は過去の育児を思い出して、「うん、こんなことがあった。こんな面白い事もしていた」と振り返ったり、孫育ての最中の人は、孫の様子を今までとは違った目で見られます。
 著者は将来母親(父親)となる若い人たちに読んでもらいたいと言っていますがそれだけではもったいないです。

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 始原への旅立ち
     ジーン・アウル  著
        百々祐利子 訳 評論社
  第1部 大地の子 エイラ
  第2部 恋をするエイラ
  第3部 狩をするエイラ
  第4部 大陸をかけるエイラ
   
子どもの為にも続きを翻訳して欲しいと思う
   2005/1/4
エイラ地上の旅人
ジーン・アウル 著
    集英社
エイラ
が出版されます。
でも今までの続きではないようです。
出版社も翻訳者も代わって子供向けから大人向けになったらしい。物語の始めからまた読み直さないといけないかもしれません。
でも非常に嬉しく楽しみです。
    
下記は出版社の宣伝ではあるけれど、時代背景がよくわかる
http://www.shueisha.co.jp/home-sha/ayla/




    
ハゲタカが嗤った日
―リップルウッド=新生銀行の「隠された真実」

浜田 和幸 著
集英社インターナショナル




2004/12/20
ここでいうハゲタカとは、弱体化した企業を安値で買い叩き、巨額の利益を得る欧米の投資ファンドのことで、死肉に群がるハゲタカにたとえたもの。
 巨額の公的資金が投じられた長銀をわずかな額で買い取ったリップルウッド(ティモシー・コリンズ)についてと、バブルの張本人と言われた高橋治則へのインタビュー、そして長銀が生き残りをかけてイ社(高橋)を強奪しようとした組織犯罪についてなど驚きの事実がたっぷり語られる。
 日本政府はリップルウッドにはめられたのか。日本が二度と騙されないための「警告の書」だという。
 ジリアン・テット「セイビング・ザ・サン」を読んだ時はまるでコリンズ(外資)が日本を救うかのような書き方だったので、外資をハゲタカと批判している高杉良「ザ・外資」との温度差を感じていた。本書を読むとやはりハゲタカと呼ばれるのも納得できる。

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2004/12/6


  おりひめ

大切なモノを
保存する技術

(家、写真、ビデオ、洋服、本、貴金属・・・)

東嶋 和子 著

三笠書房
知的生き方文庫
字が消える、音が消える、データが消える・・・・大切に保管していたはずなのに、保存の方法を間違ったり無知だったために「ただとっておいただけ」になってはいないか。ちょっとしたひと工夫でモノの寿命はぜんぜん違う。
 半永久的だと思ったCD(コンパクトディスク)の寿命は20年しかない。他、DVD-ROMは約30年、フロッピーディスクは20年。これに比べてビデオやカセットの磁気テープは30年以上、LPレコードは約100年もつとか。マイクロフィルムは約500年、酸性紙は50−150年、中性子は250−700年もつとか。
 アナログからデジタルへデータを移し替えている人が多いが、ほんとうにそれがいいのかと、本書を読んで目から鱗が落ちた。

 デジカメで撮った子どもの写真は、成人したときには全滅?

2004/11/21

   Sereneさん

 幻の女

香納 諒一 著

角川書店 1998年
しばらく前に読んだ本ですが、読み応えがありました。汚職・自殺・やくざ・不法廃棄物処理・・・・。いろいろからまりあって「ハードボイルドだぁ〜」とかんじさせてくれます。っていうか、まさにハードボイルド、ダイハードです。
でも、ストーリー展開だけではなく、登場人物も魅力的でした。あらすじを書いてしまうとルール違反。読んで楽しんでください。





2004/11/14

    R・Kさん
  神鳥(イビス)
    篠田 節子 著
  集英社文庫  ¥543
もう皆さんは、ご存知なのかもしれませんが篠田節子の作品も初めての私には、とても新鮮でひきこまれていきました。小説でなければ描けない世界に入っていけたという感じがしました。「夏の災厄」という作品も読みたいと思ってます。
裏表紙より―――





夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレイターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探り出そうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。異色のホラー長編小説。

  おりひめ―――






直木賞作品「女たちのジハード」を以前に読んで、ハイミスの男の獲得合戦のような本に嫌気がさして手に取らなくなっていた作家だけれど、R・Kさんのお薦めで読んでみれば、「えー!こんな本も書くんだ」と驚いた。テンポよく読み易くハイミスやその家族のえがき方はさすがだと思いながらぐんぐん読み進んだ。ホラーなのに二人の会話におかしみがある。私の喜びそうな本だと思って薦めてくれたのかしら。

           

2004/11/1

    Y.Y(おりひめ)

 君についていこう
 −女房は宇宙をめざした−

   向井 万起男 著
     講談社   ¥1748

 
著者は日本で最初の女性宇宙飛行士、向井千秋(旧姓内藤)さんの夫である。「やたらとスキーがうまく、酒が恐ろしく強い」だけでなく、「おんなのくせに夜の解剖アルバイトにやって来た剛毅なヤツ」というスーパーウーマンの千秋さんの夫はどれほどすごい人なんだろうと興味津々で読み始める。風貌から想像したのとはかなり印象が異なる。マキオちゃん、チアキちゃんと呼び合う二人のユニークでほのぼのした夫婦像と、チアキちゃんがのびのび活躍できたり、甘えたりできるのはマキオちゃんのふところの大きさのおかげかしらと思う。二人の出会いから宇宙飛行士へのプロセスがユーモアたっぷりにテンポよく読めるうまい文章だ。
 男はやっぱり顔じゃないんだ。

2004/10/6

   YY   
マイライフ  

クリントンの回想
  上巻    
      アメリカンドリーム           ビル・クリントン 著

 朝日新聞社  ¥1857
         
                            
 産まれる前に父を亡くし、小さな町で貧乏に耐えて育ったことは本を読むまで知らなかった。まじめで人が良くてかなり運動が苦手で、それでも政治家になる為、着実に勉強をしている。ヒラリー夫人とは初の出会いからリードされていてほほえましい。親戚の人たちとの交流やたくさんの友達との思い出がみっちり書き込んであって、読むにはいささか根気と体力が必要だがいろんなエピソードを知ると魅力のある人物だということがわかって面白い。


    10/11  ギブアップ   いつか再挑戦します 

2004/3/1

    Y.Y                 
リビングヒストリー
        ヒラリー・ロダム・クリントン 著
                         早川書房    ¥1900
       
 クリントン前大統領の妻にして、上院議員、そして今や大統領候補としての呼び声も高いヒラリー・クリントンの自伝。
ホワイトハウスでの8年間の日々を中心にアメリカの中流家庭に育った半生と夫との30年間を率直にユーモラスに書いている。、女性の地位の向上を求め、子供の人権を守り、医療保険改革に取り組んだ。そして、どんな時でも自分自身であろうとした。細かいエピソードがたくさん挿入されていて映画を見るように情景が浮かんでくる。記憶力もすごいけれど、それにしても自伝はどうしてこうも長いのだろう。

  

1999/1

  Y..Y  
ヒラリー・クリントン 
   最強のファーストレディ
    ジュディス・ウォーナー
  朝日新聞社   ¥1631
第42代アメリカ大統領夫人、敏腕弁護士、政治活動家、フェミニスト、母親―。「大統領に」、との期待もかかるスーパー・ファーストレディの素顔は―。女性記者の眼から見た初の評伝。自伝と違い要領よくまとまり読みやすい。