弥生の風、初夏の淀江路
俺の住んでいる境港市は鳥取県にある。しかし、境水道というごく狭い海峡を越えるとそこはもう島根県なのである。
つまり、鳥取県と島根県のちょうど県境にある町なのだ。
よその県の人から見ると、鳥取県と島根県はあまり違いのないド田舎、というイメージだろうけど、自転車散歩をしている俺から見ると、かなりの違いがある。
島根県は海岸線が岩だらけの磯が多く、海岸線といっても山が迫っているので坂道の割合がかなり大きい。逆に鳥取県は磯があまりなく、海岸線は砂浜なので、海岸に面した道路は平坦である。
俺は自転車散歩をするときは、どうしても変化の多い島根県を選んでしまう。道路も、車の少ない裏道がたくさんあるのだ。鳥取県の場合国道9号線がメインになるので、自動車の量がすさまじく多いのだ。しかし、今回は鳥取県を散歩することにした。
理由は、ただ単に「今日は鳥取県。」ってな気分だったから。
淀江町は、境港から米子市をぬけて東へ約30分の所にある静かな農村だ。しかし、見所はかなりある。古墳や、奈良時代に存在した寺跡、そして何より妻木・晩田遺跡(むき・ばんだいせき)という弥生時代の大集落跡が発掘されているのだ。
いつも島根県方向へ行くので、内浜産業道路などを走るのだが、今回は反対方向に向かうので、米子市までは国道431号線を南下する。
この道路は4車線の大きな道路で、交通量がすさまじく多い。歩道があるし、歩行者はほとんど歩いてないので走りやすいのだが、なんせ交通量が多いので走っていて気分は良くない。
米子市まで我慢して走ったが、排気ガスと騒音で嫌気がさしてきた。しかし自動車がいなければ景色はすごくいいのだ。道路に沿って20キロも続く真っ白な砂浜、そして松林、正面には富士山そっくりな大山がそびえている。俺のように車が苦手ではない人には超おすすめのツーリングコースといえる。
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国道431から見た砂浜 20キロも続く
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男の楽園皆生温泉
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米子市までは国道431号線をまっすぐ行くが、日本海新聞本社ビルの交差点を左に曲がる。この道は米子市内に入らず、皆生温泉(かいけおんせん)という砂浜沿いの温泉地に向かっている。この温泉は俺のような遊び好きな者にとっては天国ともいえる所で、健康ランドあり、スナックあり、フーゾクあり、と何でもそろっている。オー、まさに男の楽園。
砂浜沿いの道路はとても景色がいい。しかも、道路が狭く、幹線道路からかなり外れているので、車が一台も通らない。だが、良いことばかりではなかった。道路にたまった砂を巻き上げ、塩分のついた砂がチェーンに絡みつくのだ。
前回の散歩で、愛車ランドマスターが整備不良の文句をキイキイ言うので、色々とメンテナンスしたばかりだ。チェーンの汚れも落とし、新しくグリスを塗った。そのチェーンに砂が絡みつくのだ。めんどうだが今日帰ったらまたメンテナンスしなければならない。なんせこの娘は文句が多い。
砂浜に面した大きな観光ホテル街の横を通っていると、前のほうを俺と同じような自転車ツーリストが走っていた。よく見ると外国人らしい。
彼はなぜか大急ぎで自転車を走らせている。そのためすぐに姿が見えなくなってしまった。「何でこんな景色のいい所で急ぐんだろう。」景色を見ながら、ゆっくりと走ればいいじゃないか。
その答えはすぐにわかった。公衆トイレの中から、彼は出てきたのだ。つまり、うんこがはずんでいたのである。にやける俺と目が合うと、とてもいやな顔をして去っていった。
日野川の土手を走り、国道9号線を東に走ると、淀江町に入ることが出来た。目指す古墳地帯や、名水の里は、ここから山の方向に向かって田園地帯を南に向かう。
田んぼの中を見ると、おたまじゃくしがたくさん泳いでいる。こんな風景は、子供のころの記憶の中にしかない。
まず最初に、名水が湧き出る天の真名井(あめのまない)に向かうことにした。ここは、日本の名水百選に選ばれた所で、以前来たとき飲んでみたが、確かに美味しい水だった。ペットボトルの水がなくなったので、ちょうどいいと思ったからだ。
短いが急な坂道を登りきると、数件の民家の先に木々がうっそうと茂った場所がある。ここが天の真名井だ。小さな泉があってそこから水が湧き出しているのかと思ったら、この泉に山の上から水が注ぎこんでいる。どうやら水源は、人が入ることの出来ない山の中にあるようだ。
水をくもうと注ぎ込み口に近ずいていくと、どこかのおっさんとおばはんが陣取っている。 別に急がないので近くを散策することにした。
泉の脇にあるお堂に賽銭を入れて拝んだ後、すぐ近くの水車小屋に向かった。泉からこの水車小屋まで水が流れてくる。とても静かだ。水車小屋は二つあり、どちらもいい雰囲気を出している。泉の上も下も同じ水が流れているので、ここでボトルに水を汲んだ。手にすくってのんでみたが、冷たいし味もとてもいい。写真をとった後、ここを後にした。
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とても静かな水車小屋付近
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虹鱒の泳ぐ天の真名井
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天の真名井から東に向かい、古代の丘公園に自転車をこぐ。ここは本物の古墳の近くに古代の村が再現されている。古墳は本物だが、村がここに在ったわけではないだろう、観光客をよぶために造られたものだと思うが、なかなか雰囲気が出ていて俺は好きだ。
腹が減ったので、公園の入り口にある建物の中のレストランに入ることにした。しかし、入ってみると何となく高級な感じのレストランで、汗びっしょりの自転車野郎が入りずらい雰囲気がある。腹の方はまだ我慢が出来るので、淀江の町まで帰って弁当を買うことにした。天気がいいので、外で弁当を食べたほうが気持ちがいい。
建物を出ようと思い、横を見るとうまそうな饅頭が売ってある。「みそ太郎」という饅頭だ。饅頭の皮は黒砂糖が混ぜてあるので褐色でつやつやしている。まるで健康的な夏娘の肌、中身はどんぐり味噌あんで、もうよだれが止めどもなく出てくる。「我慢できーん。」結局五個入りのやつを買って建物を出ると、早速一つにむしゃぶりついた。
「うみゃーい。」甘辛くて、黒砂糖の香りがして、俺様的うまい饅頭ベスト10に堂々入選おめでとうございます。
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はちまんタロー饅頭の殿堂入り おめでとう。
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古代の丘公園 弥生時代のやぐらのレプリカ
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饅頭などでは当然足りない。ここらあたりにはコンビニやスーパーが無いので、国道までバックしてスーパーでいなり寿司と、ローストチキンを買って古代の丘方面に自転車を進める。
農道の所々に淀江で発見された「いしうま」という古代の馬のはにわについて、簡単な説明が描いてあるモニュメントが設置してある。これを読んでいるとき、淀江の怪人よっさんに遭遇したのだった。
年の頃65歳〜70歳といったところで、麦藁帽子に白いシャツ、便所スリッパといういでたちのよっさんは、ママチャリに乗って俺の方へやって来る。よっさんという名前は俺が勝手に付けたもので、本名ではない。顔つきが何となくよっさんだったからそう呼んでいる。初めて会ったばかりなので本名など知るはずが無い。
よっさんはいきなり「おい、あんちゃん、どこに行くダイ?」と、ぶしつけに聞いてきたかと思うと、「町立の資料館に行くなら、ただでいれてやる。俺はここでは顔が利くケン。」と言い放ったのだった。
さすがにただで入るのもなんだし、時間的に妻木・晩田(むき・ばんだ)遺跡の方へ先に行く予定にしていたので、丁重に断った後妻木・晩田遺跡への道を尋ねると「ああ、ムキバンかぁ。ムキバンならここをまっすぐだ。」木村拓哉をキムタクと言うように、国指定埋蔵文化財をムキバンと言い放った。
よっさんの暴言はまだまだ続く「ムキバンには何にも無いぞ、遺跡しかない。つまらんわ。」・・・・・その遺跡を見に行くのだが。
さらに「温泉が近くにある。でも金をとる。ただじゃないぞ。行かん方がええ。」・・・・・
最後に「どこから来た。ん、境港、スグ近くだがナ。はははははは」と高笑いをして去っていった。自転車で25キロ離れた町からやって来た男にすぐ近くだって?・・・・・
恐るべしよっさん! その後姿は異常にでかく見えたのだった。
よっさんが去っていった方向を見ると、小さな広場に古代のやぐらが造ってある休憩所があったので、やぐらの上に上って昼食を広げた。
天気もいいし、いなり寿司とローストチキンの昼飯は小学校のころの遠足のようで、何だか嬉しくなってきた。
近くにゴミ箱が無いのでリュックにゴミを入れると、ムキバンに向けて出発だ。
航行の脇の道をまっすぐ山に向かって進む。かなりの坂道だ。俺の前をトライアスロンの人がどえらいスピードで登っていく。ちかじか皆生海岸でトライアスロンの大会があるので練習しているのだろう。しかし化けもん並みの速さだ。
ふうふう言いながら坂を登り、看板に従って左に折れると山の頂上に妻木・盤田遺跡の資料館があった。中には人の姿がまばらにあった。
資料館より先に遺跡を見ることにした。遺跡は資料館を中心に、西と東に分かれて点在している。東側の遺跡には、青いビニールシートが被せてあった。ここはどうも、一般の村人の居住区域だったみたいだ。地面に穴を掘り、直接柱を埋め込む竪穴式住居跡の住宅密集地なのだ。
そこらじゅう柱の穴だらけのこの地区から、今度は資料館の西側を散策することにする。
ここは広くて整備された芝生の広場が広がっている。夏になれば水やりも大変だろう。
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まだ発掘中、弥生時代の大村落跡
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ここも発掘中で−す
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それにしても今日は日差しが強い。日焼け止めクリームを塗ってあるとは言え腕と足が真っ赤になっている。いくら暑くても長袖を着るべきか。
環濠という砦跡までたどり着くと淀江の町はもちろん、遠く境港まで一望できた。ここなら下から攻め上る敵を迎え撃つことが出来たに違いない。もしかしたら激しい戦いがあったのかもしれない。
もときた道を引き返すと、芝生の上に家族連れがいた。子供たちがはしゃぎまわっている。ボランティアのおじさんがここの解説をしながらこの家族を案内している。そうと知っていれば、この家族の後ろからついて歩けば解説も聞けるし、ただだし、おしいことをした。
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きれいな弧を描く弓ヶ浜 先端が境港市
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竪穴式住居 ボランティアさんが説明中
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資料館に入り、ペットボトルのお茶を買った。暑いのですぐ水分がほしくなるのだ。
ホールでこの遺跡の説明ビデオを見た後、トイレに入った。水分の取りすぎか、腹がゆるい。この時背中のリュックを下ろしホールのソファーに置いてきたので、トイレが終わった後もとのソファーに戻ってみるとなんだか生ゴミの匂いがするのだ。「くっせー。」ゴミぐらいかたずければいいのに、と思いながら匂いの元をさがすと、どうも俺のリュック臭い。昼飯のゴミが早くも匂っているに違いない。「やばい。」俺はそそくさと資料館を後にするのだった。
妻木・晩田遺跡を後にして上淀廃寺という、奈良時代の寺院跡に行くことにした。
上淀廃寺は古代の丘公園の南側にあり、あまり人が訪れない山裾にある。
柱を立てた跡の穴しかない。昔の姿を想像してみたが、頭の中に思い浮かばない。一応一回りした後、ここを後にした。
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上淀廃寺 ハイジのテーマを口ずさんでいた
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神社の中にあった丸い石 何だろ?
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途中に小さな神社があり、賽銭をあげたあと古代の丘公園に戻って缶コーヒーでくつろいだ。この時例のトライアスロンマンが数人近くで休憩している。こっちの方を見るが、あまり興味を示さない。こっちもこっちで無視しつづける。おなじ自転車仲間でも、目的が違うと挨拶もしない。お互いに悪い傾向だ。 ねぇ、お互いに直そうよ。わざと無視しあうなんてほんとにつまらんと思う。
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神社の入り口に可愛らしい男女の石碑が
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何だかわからん花がたくさん咲いていた
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帰りは向かい風だ。車の多い国道を目いっぱいスピード出して走り抜ける。
淀江から米子、そして境港。その間中、目いっぱいのスピード。いつもなら手のひらが痛くて、スピードなんて出さないのだが、今日はツーリング用のグローブをしている。サングラスに続いて力強い味方登場。この次からもお世話になります。
今日の散歩は淀江の怪人よっさんの登場によって、一気にテンションが高まった。しかし、いつもいつもよくこんなにズッコケ話しが続くものだと感心する。もしかしたら、ズッコケの寄って来やすい体質なのかもしれない。ふぅ・・・・・・・
本格的に夏になってきました。たまには遺跡めぐりもいいかもしれません。お金もかかりませんし。