〜山口で愛車二号試運転
皆さんには興味ないと思うけど、俺の趣味は自転車の他にもいろいろあり、忙しく遊びまわる日々が続いている。競馬、CG、ヘアヌード写真集集め、悪書研究、もちろん自転車散歩もその一つだ。そんな多くの趣味の中で、小学生のころから大好きな趣味として天体観測がある。
お年玉をためて初めて買った天体望遠鏡は、値段の割には品質がよく、今もまだ現役で活躍中である。お年玉で買える程度のものでも、土星の輪っかや木星のしま模様などは、はっきりと見える。さすがに天文台の大望遠鏡とまではいかないが、子供の心に火を付けるには十分だった。弟(八幡次郎)と二人で、この趣味は今も続いている。
ちなみに、八幡太郎、八幡次郎は、はちまんたろう、はちまんじろうと読むのであって、やはたたろう、やはたじろうではない。最近間違える人が結構いるので念のため。

さて、俺の弟八幡次郎は島根県西部のとある町に住んでいる。しかも、おあつらえむきに日原天文台という一般公開天文台が近くで営業している。天文台で星を見た後、次郎のねぐらで泊まればいいのだ。
さっそく出発の準備をするため自転車を置いている倉庫に向かったが、いつものMTBランドマスターではなく折りたたみ式自転車の愛車二号、プジョーコリブリを車に積み込んだ。実は今回の天文台行きは、愛車二号の試運転を兼ねているのだ。はたして愛車二号はどんな走りを見せてくれるのだろうか、今から楽しみである。
この日の天気予報は、俺の住んでいる町、境港は雪。確かにもうみぞれが降っている。しかし休日貧乏のサラリーマンにはこの日をあわせて三日の休日しかない。鳴くまで待とうホトトギスなんていう家康みたいなやつは、しょせん庶民の気持ちのわからないお殿様であって、俺たち一般人は、殺してしまえホトトギスの信長式でないとおまんまが食えなくなってしまう。殺してしまえホトトギス、いやぶっ殺すぞコラホトトギスぐらいの殺気立ったおっさんの集まりなのだ。何だ、文句あんのか?・・・・・いかん、つい殺気立ってしまう。皆さん、申し訳ない。
自宅の境港から車で五時間かけて、弟八幡次郎のアパートへたどり着く。何と道路も家の屋根も真っ白の雪景色、このぶんでは近くの日原町も大雪に違いない。
「どうせ雪で星なんか見られないよ。」と八幡次郎は言うのだけど、五時間もかけてやってきて見られなかったでは納得いかない。しぶる八幡次郎を車に乗せて強引に日原町まで車を進めた。
日原町はやはり白一色の雪景色、そのうえ高い山の上の天文台ときたらいうまでもなく豪雪地帯。がっかりして二人とも空を見上げる其の足元には、リゲルという名前の天文台のマスコット犬がじゃれつく。みんなが肩を落としているのに、このチャウチャウ犬だけが能天気にはしゃいでいる。しかもすさまじくでかい。星のすばらしさのわからんデブ犬に怒って見ても仕方がないので、天文台でコーヒーを飲んだ後、日原町を後に して八幡次郎のアパートへ帰って寝ることにした。

あくる日は打って変わってピーカン天気。「なめとんのか、ワリャー!」いっつもこーだ、天気という野郎は俺を快く思ってないらしい。なめた野郎だ、まったく。
しかし今日は、山口県内のツーリングをするつもりなので、この天気はありがたい。おおいびきで寝ている八幡次郎を残し、早朝から車に乗り込む。
向かうは山陰の小京都津和野だ。駅前の駐車場に車をとめ、愛車二号を組み立てる。十秒とかからない。うっすらと雪の積もる駐車場のなかを、自転車にまたがっていざ出発。ところがどっこい、溶けかかった雪が夜の冷え込みでがりがりに凍ってハンドルを取られる。タイヤも空転する。思ったより前途多難だ。

実は津和野には以前きたことがある。昔付き合っていた女の子とドライブでやって来た。そのことを思うと、一人で走るのはほんっとにつまらんなと思う。そろそろ独身も潮時かと思う。
色々見て回ったが、何気なしにどぶ川の中を見ると、たくさんの鯉が泳いでいる。実はどぶ川ではなく、清流の流れる川だった。しかし、見るからに寒い。こいつらは夏も冬も関係なしに元気がいいのだ、悩み事もなさそうだ、まったくうらやましい。
その他には、江戸時代のキリシタン弾圧で命を落とした何十人もの少女たちが祭られているキリスト教会なども見たが、葛飾北斎記念館というのを発見、さっそく入ってみることにした。
俺は絵を描くことも好きで、特に浮世絵は大好きなのだ。中は二階建ての落ち着いた建物だったが、お目当ての浮世絵は数が少なく、掛け軸などが多かったので少しがっかり。ここを出た後、秋吉台へと向かう。
途中、道の駅に立ち寄ると、そこに長門峡という見事な景色の渓谷があることを知った。さっそく自転車を車からおろしていざ出発。
其のころから雲行きが怪しくなり、何と小雨まで降ってくるじゃあないの。天気はどこまでも俺様の敵に回るつもりだ。
ごろごろ岩の立ち並ぶ川のがけっぷちに、人が一人通るのがやっとの道路がくりぬいて作ってある。途中には階段もあるし、どろどろの水溜りもある。その度に細心の注意を払わなければならないのだ。
挙句の果てに、雪まで積もっている個所まである。いいかげん腹立ってきた。「どがならいっ!」(何だってんだこの野郎)そして飛び出た岩の角で、大切にしているダウンジャケットをこするにいたり、怒りが大爆発。散々悪態をつきながらもときた道を帰っていった。しかし皆さん、この時期に自転車で来たからいけないのであって、秋の紅葉などはすばらしい景色になるだろうことは想像に難くない。一度来て見られて損はないと思う。

さあ、ここからは今日のメイン秋吉台へ車を進めるとするか。長門峡からそんなに時間もかからず、秋吉洞の近くまでくることが出来た。前に来たときは、駐車場も有料しかなくて土産物屋のおっさんたちが自分の駐車場に客を入れようと血眼になっていたのだが、今回来てみると無料の大きな駐車場が何ヶ所も出来ていた。その中の一つにつく間をとめた後、自転車を組み立てる。しかしこの自転車、軽いし組み立てやすいし、後は秋吉台の坂道でどういう走りを見せてくれるのかだけだ。走りも文句なければ何も文句をいうことはない。
トンネルを越えて上り坂を登る。秋吉台までは五キロの標識が出ている。そんなに遠くないおあつらえ向きの距離だ。
ここで天気がはじめて味方してくれた。どんより曇っていた空が、一気に晴れ渡ったのだ。秋吉台の景色とあいまってすばらしい思い出を作ってくれるに違いない。

坂道を登っていくにしたがって、この自転車の欠点も見えてきた。ホイールベースが短いせいで、立ちこぎをするととてもふらつくのだ。苦しくてもサドルに腰をかけて上っていくしかない。それよりも下りが心配だ。へたするとふらついてこける可能性がある。
天気もよくなり、ダウンジャケットを着ているせいもあって汗がにじんでくる。かなりの坂道の上、車がびゅんびゅん追い越していく。ランドマスターなら楽勝なのだが、プジョーはやはり坂道には適していない。コイでもコイでも秋吉台の景色が見えてこないし、自動車の脅威はあるし、いったん車まで帰ることにする。
さあ下りだ。しかし、全力で自転車を走らせることは出来ない。ハンドルがものすごくぶれるのだ。「きょてーっ、きょてがな。」( こわーっ、こわいよーっ)
転ばないように細心の注意をしながら坂を下る。はっきりいってこの手の自転車は坂道には適さない。自動車に積み込み、町の中を乗りまわるのが最高にいいように思う。携帯性や、色形のかわいらしさは最高なのだ。
自転車を車に積み込み、車で秋吉台まで走る。以前も来たが、何度来ても不思議な景色を見せてくれる。だだっ広い場所にゴロゴロの岩。ここは火星か。鹿児島に行ったときも、桜島の溶岩の中の遊歩道に心奪われたが、地球上の景色とはかけ離れた場所というのは、俺を魅了してやまないのだ。八丈島かどこかに、黒い砂漠があると聞いたことがある。ぜひ行って見たいところである。

丘の中腹に、数本の木が生えている。この景色は心が和む。こんなところに家を建ててすんでみたいと思って後ろを見ると、美人のおばさんが立っていて、友達のおっさんおばさん連中にここに家を建てたいと、俺と同じことを言っていた。美男、美女は考えることも美しい。
車に戻り、今日の宿の山口市内にあるビジネスホテルに向かった。途中、大田、絵堂という村に立ち寄った。ここは明治維新のとき、有名な高杉晋作ひきいる奇兵隊が藩の軍隊相手に大勝利を収めた古戦場である。ここで何人かの人が戦死した。人が人の命を奪うことほど理不尽なことはない。歴史が動くときは、流血を要求するのか。現代も同じだ。何とかならないものだろうか、真剣に考える時期が来ているように思う。

いったんホテルにチェックインして、すぐさま車で日原天文台を目指す。八幡次郎は一足先に天文台に到着しているはずだ。
今日は天気がよくて、星が見えている。山口市内がこの調子なら、天文台で星が見れる。山口氏から天文台までは車で一時間足らずしかない。
しかし、島根県との県境を越えたころから霧が発生しだした。あまりの天気のよさで、地面の水蒸気が放出されたのだろう。天文台は濃い霧に包まれていて、八幡次郎は呆然と空を見上げている。気が付くと口が半開きの状態で、とても男前のいつもの俺とは思えない。
しかし、天文台のスタッフが気を使ってくれて、二日連続で天気に翻弄された男を気のどくに思い、おいしいシナモンティーをご馳走してくれた。
今回は星を見られなかったが、近いうちにまた来ようと思っている。星は逃げない。天文台のスタッフの方、どうもありがとう。
ちなみに、この天文台で売られているチョコレートクッキーはとてもうまい。俺の周りにも一度口にして、ファンになった人が何人もいる。ここをたずねられた方は、ぜひ一度ご賞味あれ。
日原町は、津和野、萩、秋吉台などの観光地も近く、夜には天文台で星を見ることが出来るとても良いところです。天文台にはしゃれたペンションもあり泊まることが出来る。今回は残念だったが、次回こそは、と心に誓う八幡太郎であった。

日原天文台は、とても魅力的なところです。近くの観光地に来たのなら、夜の間は星を見に足を運んでみてはいかがでしょうか。