・・・・・神々の集う出雲大社へ(前編)
ある日のこと、昔の自転車雑誌を読み返していたら、「出雲路ツーリング」と題して二人のおっさんが出雲から島根半島の一番先端にある美保関という所までツーリングをした記事が載っていた。
ちょうど「そろそろ遠くまで自転車散歩したいな。」 と思っていた所だったので、今回の自転車散歩は出雲大社参りに決定した。
俺の住んでいる境港市から出雲市まではとても一日で往復できる距離じゃない。少なくとも出雲市で一泊することが必要である。
インターネットで適当なビジネスホテルを検索してみると、俺の大好きなサウナの付いた、しかも結構安いホテルを見つけることが出来た。そのホテルの名は「リッチガーデン」という。
"リッチガーデン"、何という安易で怪しい名前。バンコクあたりにありそうな名前だが、その怪しさがまた何とも食指をそそる。こういった雰囲気は大好きなのですぐさまここに決定。後で聞いたことだけど、"あの"有名人もここに泊まったことがあるらしい。それは誰か?
後で分かることである。(笑える人ではないので、大して期待しないように。)
予定では朝早く出発する予定だったのに前の日の夜、競馬の予想に熱が入りすぎるという回避不可能なアクシデントが発生した。
結局眠りについたのは午前二時。当然朝起きるのはふだんよりかなり遅い午前十時。
しかも、悪友ミチが尋ねてきて競馬の話題に花が咲いて気が付くと十時半になっているではないか。
「とっつぁん、ええかげんにしいや!」愛車ランドマスター、通称ランちゃんにまたもや文句を言われそうで情けない。 あわててパソコンで馬券を買った後ランドマスターに飛び乗るというあわただしさ。
当初の予定では米子から松江経由で行くはずだったのに、寝坊のおかげで大根島から松江経由に急遽変更をした。こちらの方が距離が短縮できる。
いつもの江島、大根島コースを走り、中海沿いの朝酌(あさくみ)方面に向かった。少し走ると道路工事の看板が出ている。「全面通行止め」と書いてある。
ここの道路は曲がりくねって狭い上に、交通量が結構多いので油断ならない所なのだが、全面通行止めのおかげで車が一台も通らない。「今日はラッキーだでー」鼻歌混じりのルンルン気分。
しかしっ、この狭い道路の工事を甘くみすぎていた。狭い道いっぱいいっぱいにショベル車が大穴を掘っている。その大穴に自転車や人が落ちないように厚い鉄板がひいてある。そいつがピカピカに光っているのだ。
「あっ!」と思ったときにはもう遅い、すてーん!!と横倒しに転んでしまった。見た目よりも、もっとツルツルになっている。
おそらく他の道路工事のとき穴の上にひいたため、車が上を通って鏡のように磨かれたのだろう。
道路工事の人があわてて駆け寄ろうとしていたので、サッと立ち上がってにやけながら頭を掻きながら自転車を押して歩き出すと、その工事の人は安心したのか立ち止まってこちらを見ている。
すんげぇカッチョ悪い。じつは看板には、「自転車は押して歩いてください。」と書いてあるのを知っていながら甘く見て、かなりのスピードでこいでいたのだ。
幸いにして怪我が無かったからいいものの、頭でも打っていたら大変なことになっていたかもしれない。やはり、ヘルメットはかぶるべきだろうか。
何度も書くが、自転車用のヘルメットというやつはとてもカッチョ悪い。シイの実を半分にカチ割った形で、異様にでかく頭からはみ出している。中華なべを取って付けたように見えるのだ。こんなのをかぶるぐらいならいっそ中華なべをかぶったほうがウケが狙えていい。でも安全には代えられないし・・・・・やっぱ、止めた。
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中海大橋。これがシンドイんだ。
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誰のためのモニュメント? 白鳥さん
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朝酌の村落を抜け、 中海大橋のたもとに出る。ここを渡れば国道に出られる。
ふっ、と道路の脇を見ると、白鳥のモニュメントが鎮座している。自動車からでは一瞬しか見えないし、歩行者などめったに通らない。何か意味があるのか、もしかして自転車散歩をしている人間のために作られているのか。そんなわけない。なぞだ。
松江を抜けて出雲に向かうには、宍道湖の北と、南の二つのルートがあり、今回は南ルートを通ることにした。それにはわけがある。南のルートには大きな古本屋があり、俺の大好きな悪書が所狭しと並べられている。当然今夜のためにここで悪書を購入した。
隣のスーパーで揚げだし豆腐弁当を買い、近くの空き地でそれを食べた後景色のいい宍道湖沿いを一路出雲市へ向かった。
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宍道湖から見た松江の町並み
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チョウでかい斐伊川
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出雲市の手前には、すごい数の銅剣が出土した荒神谷遺跡と、これまたすごい数の銅鐸が出土した加茂岩倉遺跡があるはずだ。古代好きの俺にしてみれば、この二箇所を訪れなければモグリである。
しかし、探せども探せども案内の看板などが出てくる気配が無い。ついに出雲市内に入ってしまった。まあ明日もあるし、ホテルについたら地図で探してみようと思い先を進むことにする。
出雲市内には、出雲自転車道という自転車専用道路があり、出雲大社までつながっている。以前通ったことがあるのでもう鼻歌交じりで自転車道を進んだ。
自転車道のすぐ脇に、幅二メートルばかりの用水路が道に沿って流れている。少し進むと一ヶ所だけ用水路の幅が五メートル近くまで広がって、まるで池のようになっている個所があった。なんと、その中には小学生が三人ほどフリチンで泳ぎまくり、大はしゃぎしているのだ。
「元気いいなー、気持ちええか?」ときくと、「気持ちええよ、オッツァンも入ればいいがな。」と誘ってくれる。
海パンもないし、遠慮させてもらうというと、なんと自分たちのようにフリチンで入ればいいと真剣な顔でのたまう。
俺は元来非常識な人間で、友達の結婚披露宴のアトラクションで素っ裸の上にダンボール製の巨大なペニスケース を装着して踊りまくり、終いにはペニスケースの先端でバナナを回転させるというオゲレツ技を繰り出し、大ヒンシュクを買った経験がある。(一部の者にはこれ以上のないバカウケだったのだが。)
「よしっ、入ってみるか。」とおもいもしたが、やはりフリチンは如何ともしがたく「また今度な。」と言い残してこの場を去った。彼らの顔を見ると、明らかに不満のある顔で手を振っている。君たち、いくらオゲレツなおじさんでも、警察に逮捕されるようなことは出来ないのだよ。
自信たっぷりに進んだ出雲自転車道だったが、近道をしようと路地に入ったのがウンのツキ、自転車道を見失ってしまった。
仕方なくまた国道に戻り、先に進むことにした。ホテルに入るにはまだ日が高くもったいないので、神様たちに挨拶するために出雲大社へお参りすることに決めた。出雲市内から出雲大社までは、自転車で三十分ぐらいかかる。途中には島根ワイナリーというワインがただで飲めるところがあるのだが、ここで飲んでしまうと絶対にホテルまでたどり着けないと判断し、断腸の思いで入館するのを断念した。
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出雲大社入り口、ここからが奥深い
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大社本殿。巫女さんもかわいい
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ワインが飲めないはらいせに目いっぱいのスピードで自転車をこぎ、出雲大社に到着した。
出雲大社の入り口に自転車を止めて参道を進む。時間もすでに夕方になっていたので、参道の両脇に建っている屋台はすでに店を閉めている。人が少なく少し寂しい風景の出雲大社だ。
出雲大社に祭られている神様の名前をご存知か? そう、有名なオオクニヌシノミコト。大黒様のことだ。
ここで皆さんの知らないことを教えることにしよう。
オオクニヌシは当時の日本でも大和朝廷に並ぶ超大国、出雲の統治者だった。大和はこのライバル出雲を攻め、ついに降伏させる。オオクニヌシは戦死、または処刑され出雲帝国は壊滅する。このとき大和はオオクニヌシの怨霊を恐れ、彼を祭る巨大な神殿出雲大社を建造したのだ。
ここまでは大概の人は知っていることだ。しかしこの先を知っている人は少ない。
本殿に祭られているオオクニヌシノミコトの側には、大和の神々が付き従っている。少なくともそういう風に言われている。しかし、本殿の正面に向かって鎮座しているのは、実はオオクニヌシノミコトではなく、従者であるはずの大和の神々なのだ。主神のオオクニヌシノミコトは正面の右、つまり西の方角を向いて座っておられる。
お参りする人たちはオオクニヌシノミコトに手をあわせているつもりだが、実は大和の神々に手を合わせていることになる。
これは、従者という肩書きの大和の神々の本当の役目は、オオクニヌシの魂が怨霊となって抜け出さないように見張っていると思われる。そして、知らず知らずのうちに出雲の人々がオオクニヌシに手を合わせるのを防ぐため、わざと本殿の正面を南側にしたらしい。
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オオクニヌシノミコト。りりしいお姿
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ここから拝むと大和の神様に手を合わせることに。
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山陰に生まれ育った「男はちまんタロー」はこの真実を知ると、激怒した。やせてもかれてもこのはちまんタロー、地元の英雄をないがしろにする陰謀に乗せられるほどダボではない。
愛車ランちゃんとともに西側、つまりオオクニヌシノミコトの正面に回り、きっちりと柏手を打った。大和の神々にも一応柏手を打っておいたけど。
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競馬たのんまっせー。馬の神様像
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大社の近くには、出雲阿国さんの墓所がある
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出雲大社の敷地内には、馬と牛の銅像が建っている。何で馬と牛なのか分からないが、賽銭箱も置いてあるので、一応神様の一員なんだろう。俺はすかさず馬の銅像に手を置いて、「これからよろしくお願いします。」と、心の中で祈りをささげ、賽銭を入れた。無論、競馬必勝の祈願である。このご利益はてきめんに現れ、今年の夏競馬は絶好調となった。ほんとだよ。
出雲市内に帰り、愛想の悪い店員のいるラーメン屋であまり美味くないジャージャー麺を食べてホテルに向かった。
ホテルの場所はHPで調べていたものの、それらしきものが見当たらない。大きなドラッグストアに入って、店員のおばさんに「リッチガーデンというホテルを知りませんか。」とたずねると、親切に場所を教えてくれた。
このおばさん相当話し好き と見えて、ホテルに関するいろいろなことを教えてくれたが、その話の中でバイオリニスト葉加瀬太郎が泊まったと、教えてくれた。そう、冒頭の有名人とは、葉加瀬太郎のことなのだ。彼ぐらいになるともっといいホテルがあるだろうにと思ったが、なかなか庶民的で好感が持てる。名前も同じ太郎だし。タイヘンヨロシー
ホテルは閑静な郊外にあり、自転車はホテルのフロントから良く見える玄関脇に泊め、二重にチェーンロックをかけておいた。
早速チェックイン、部屋に向かって廊下を歩くとあちこちに大きな油絵が展示してある。それも、結構有名な画家の絵だと言うことで、触れると警報が鳴ると注意書きがしてあった。
俺の泊まる部屋の横にかけてある絵は、上品な女の子が椅子に腰掛けている絵だった。
一たん部屋に入り、エアコンをつけて荷物を置いた後、サウナにいくためにフロントまで下りるついでに、各階の廊下を回って絵画を眺めてみた。
俺のお馬鹿なイラストと違ってさすがはプロの絵画、うまい。しかしっ ! 面白みにかけては俺様の比ではない。プロなら俺様のイラストで面白みという面をもう少し勉強するように。
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ホテルの廊下には絵画が。おお美少女ねぇ
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何となく好きな絵。
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ここの風呂場には、サウナのほかにも色々な効能のある数種類の風呂があり、疲れた体にはとてもありがたい。
サウナで汗を流した後、リラックスルームでビールと枝豆の塩茹をたのむ。
この瞬間はほんっとに天国だぁ。渇いたのどにコペコペッと人類最良の友ビールを流し込む。その後ホカホカの枝豆を前歯でガジガジッとサヤからはずして噛みしめる。
ああ〜最高だなぁ。周りにはおっさんしかいないので「ゲッフーィ !」とげっぷをしても恥ずかしくもクソもない。ああ〜天国だな〜、「プッ、プーッ
!」と屁までこいちゃったりして。
部屋に戻れば悪書が待っているしねぇ。
自分の好きな自転車散歩をして、サウナしちゃって、エリナちゃんの悩殺ポーズまで鑑賞しちゃって、これほどの幸せがあるのだろうか、と満足の夕べであった。
一般人の幸せなど、こんな物ではないでしょうか。しかし、大金持ちの幸せよりも何倍も幸せだと思うんですがねぇ。