今回の不思議な話      取り憑かれた話 

昔から狐や狸に取り憑かれる話しはよく聞くが、実際に取り憑かれた人には出会ったことがない。私は、小さいころからお化けのたぐいは信じる子供だったか゛、狸や狐のような実在の動物がドロンと化けるとか、人間に取り憑くなんてことはありえないと思っている。

しかし驚くべきことに、島根県のほうには今でも「隣のおばやんやちゃ(おばさんなどは)山ん中で、狐にあばかされた(だまされた)しこだ(らしい)。」などと大真面目で説明するおっさんが、ときたまあらわれる。

こっちはそんなことは信じてないから、フフンと鼻で笑うのだが、本人は口を尖らせて本当だと言い張るのだ。もっともおっさんの言うことを全部否定しているわけではない。山の中で、何者かに騙されたおばさんがいるというのはあり得る事だ。しかし、それがあのコンコンと鳴く狐と言うのはちょっと信じがたい。

ある日、そのおっさんとキノコ狩りに山に入ったが、独特の不気味さが漂っていた。山の中には確かに何かがいるようだ。狐や狸などとは違うようだが、ただ人を騙す為だけに存在する何者かの気配がする。確かにその山の中にはそんな不気味な存在がこちらをうかがっているのだ。

人を騙す霊がいるのも確かだが、人に取り憑く霊もまた存在する。
今から三年程前、夜自分の部屋で眠っていたのだが、夜中の三時ごろだったか、突然激しい悪寒が全身を襲い、体の芯からガタガタ震えてくるのだ。「これはいかん、何とかしなければ。」と思い、頭から布団を被り丸くなって手足をこすったが一向に震えがとまる気配がない。この時になってようやく、これは霊の仕業に違いない。と、気が付いたのだ。

私は夢中で両手を合わせ、死んだ祖父母の顔を思い浮かべながら「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・・・・・」と、何度も唱えた。
祖父母が守ってくれたのか、南無阿弥陀仏のご加護か、体がだんだん楽になり、震えもとまった。

普段は不信心なくせに、こんなときだけ念仏を唱えるなどとは虫のいい話しだが、そのことはさておき、この経験は実際の出来事である。
これを憑かれたと言わずして、何というのだろう。思い出しても身の毛がよだつ出来事だった。あの時、何者の霊が憑いたのか、未だに謎のままである。

 

 

とし