人にモノをすすめるのはとってもむつかしいけどやってみる


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file.1 ブエナビスタより豊潤な「裏山サンバ」。

.■VA「すばらしきサンバの仲間たち」(オーマガトキ・SC-3111)

 ブラジル音楽のなかでも、サンバは軽薄な印象があるみたいだ。それは、軽薄な人達が軽薄にサンバを利用して、軽薄なサンバを流行させたから。だからサンバというと、派手派手しいダンスやワイルドな人達のビジュアルとともに、どんどこどんどんピーピピピーという騒がしい音を想像するでしょ?(もちろんそういうサンバもあるけれど。)  でも本来のサンバは「ボサノヴァ」の前形態的な側面のある、味があってしぶくて、なおかつ洒落た音楽なのです。このアルバムでは、じいちゃん達が辛い人生をうれしそうにたのしそうに心をこめて歌ってる。かといって枯れて渋いだけの音楽じゃない。じいちゃん達もカーニヴァルを長年支えてきた名手揃いだ。のどかな曲調なのにパーカッシヴで、体が勝手にぴょこぴょこと踊り出す、ゆるやかでたおやかなフィジカルさ。このアルバムを聴くということは、人生の確かな至福のひとつですよ、ほんとの話。(2001.7.17).

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file.2 日常を、さっくりと

.■Wolfgang Tillmans「BURG」(TASCHEN)

 写真なんてさっぱりわからない。わからないから、パッと見たときの衝撃とか感動だけを頼りにして、本当に欲しいものだけを、たまに買う。この本もふと見つけて、うわっと思って、これは買うしかないと思ってさっと買ってしまった。ひたすらに格好のいい写真集って探せばけっこうあるけど、この人の写真はかっこいい上になんか泣ける。一枚一枚に物語がある。色も気持ちいい。 この写真集に載っている、おっさんや、川や、静物や、脱いだジーンズや、バラや、コンコルドや、ちんぽこや、ジャムや、死んでひっくり返ったトカゲや、排水溝のネズミや、鹿や、リッチー・ホウティンや、工事現場や、空は、いつ見てもなんだか泣けてしかたない。しかし、なんでコンコルドとかちんぽこで泣けるのか、落ち着いて考えるとすごく不思議だな。

 TASCHENから出ているので、安い上に手に入れやすい。 是非とも。(2001.7.20)

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file.3 世界デ一番イイ国ヨ

..■ボ・ガンボス「HOT HOT GUMBO '92」(ESVU-534)

 トラックの荷台に乗って、大音量で演奏しながら町を練り歩くパレードから始まる、西部講堂でのボガンボ祭り、もちろんタダだよ。得体の知れないホームレスみたいなおっさんも、着飾った女も、ヤンキーみたいな若僧も、買い物帰りのおばちゃんも、ニコニコ笑ってわさわさ踊ってる。バンドの演奏も脂のりまくりで最高。どんとのMCもなめらかに絶好調。なんで俺がこの場にいないのか??こんなに楽しいライブってないよ、たぶん本場ニューオリンズのカーニヴァルだってこんなに楽しくないんじゃないか? 「いけないものをもってるひとはやっちゃってくださ〜い」とか言ってるけど、そんなもんなくってもこんなに感動できるんだ。あのさ、ラブ・アンド・ピースというのはこういう事だよ、こういうことをいうんだよ。歓喜ってこういうことだよ。 どんとも「一番よかったライブ」って言ってたそうだ。そりゃそうだ。もう一生観る。観るたび、なんか長生きできそうな気分になる。(2001.7.21)  【ライブ画像こちら】

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file.4 自分の住むところには自分で表札を出すにかぎる

.■石垣りん「表札など」(童話屋)

 女性詩人。1968年の作品の再発。  硬派なのにすごくあたたかく、気取ってなくて、燐としている、素晴しい詩集。女性らしいキュートなところもある。何より、誰でも読める平易な文なところがすごくいい。たぶん、普段本なんて全く読まない人でもすんなり読めるだろう。だから、30年以上前の作品なのに、全く古びてもいない。今年出た作品と言われても疑わない程。  考えること、思うこと、感じることに、無理をしなくていい。やるべきことをやれるようにやればいい。読んだ後、そんなふうに思える、無添加なことばたち。

反則だけど引用してしまおう。とびっきり可愛いやつを。「銭湯で」 一番良い詩は載せません、買って読んでね。

(2001.7.22) 


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file.5 浮かんでいく心

.■ASTRO AGE STEEL ORCHESTRA「Happy Living」(SONY SRCS-745)

 頑なに張ると書いて「頑張る」。うん、それは必要。でも「いいかげんは良い加減」なんていう根拠の無いのほほんとした言葉を信じたい。困った人にはそんな間抜けで脳天気な言葉をかけてあげたい。

 ヤン富田は意思の人で、僕は度々その意思に勇気づけられたけれど、時にそれはうっとうしかったりもする。なので、とってもやんちゃなこのアルバムが本当に大好きだ。「ドゥーピーズ」よりこっちだろ。他のヤン富田作品には無いかろやかさの中に、キュートでやんちゃな意思がある。勝ち負けなんていいんだ負けたっていいんだ、そんな事にこだわっている暇に空高く空高くを突き抜けてやる、という無茶なやんちゃぶりだ。 こんなふうがいい。こうやって生きていくのがいいです。僕は。

(2001.8.15) 


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file.6 なにもないところからはじめよう たくさん持つようになっても忘れないでいよう

.■ぼくんち 1〜3巻 /西原理恵子 (小学館)

 サイバラのマンガにはいつも厳しい境遇と貧困がある。 サイバラの幼少時代はものすごく貧乏だったということはたびたびマンガでも描かれているが、今はたぶん物凄く金持ちだ。博打でウン千万負けてはいても(笑)、貧しい生活はしてない。外国での旅行記でも、金はめちゃくちゃ使うし、現地の人間の札束で面をひっぱたくような事ばっかしている。なのにそこでのサイバラは、ただの成金な国から来た観光気分の旅行者では全くない。もちろん当事者でもない。やさしくもせず、卑下もせず、物事や人達をただ見つめながら、あっけらかんと笑いながらどかどか歩いていく。いや、旅行の時だけじゃない。日本にいるときも、カンボジアにいるときも、金持ちとしゃべってる時も、ホームレスとしゃべってる時も、くだらないことも、高尚なことも、子供も、大人も、博打で124万円もすってしまう時も、東長崎でまずい飯喰ってる時も、ありのままにフラットだ。つまり、

ビンボーはビンボー。キビシイ境遇はキビシイ境遇。カワイソウがってても仕方がない。 

ということ。こう言い切るのには相当な覚悟がいる。だってどんなにミエミエな嘘泣きだろうと、ヒューマニストづらしてかわいそうがっていたほうがウケはいいし安全だ。それをしないサイバラには、覚悟がある。サイバラのマンガで、どんなにきわどい表現が出てきても嫌悪を感じることはまずない。自分の表現全てについて、ケツを吹く覚悟がサイバラにはあるもの。他人の不幸や、テメエの陳腐な悪趣味をギャグに転化して喜んでいる奴らなんかとは全く違うんだ。だってあいつら言いっぱなしだもん、安全地帯からもの言ってるもん、危ない状況になったらすぐ逃げるもん、絶対に。 

 逆に、あたりさわりのない安全な事しか言えず考えられず、思考停止していることにも気付かずにいる人達もやっぱりたくさんいるんだろう。彼等の言うことはなんだかんだ言ってやっぱりある程度正しいから、自分の頭の固さにもなかなか気がつけない。でもそんな人達にも、サイバラのケツの拭きっぷりは痛快で正しく見えると思う。

 だからマンガを普段読まない人におもろいマンガない?と聞かれたら、必ず「ぼくんち」を貸してあげることにしている。「ぼくんち」はサイバラの叙情的な部分と、「それは勝ち負けでいうとどっちや」なんて言っちゃうケツの拭きっぷりが一番良い形で混ざりあっているから。 総カラーの美しい装丁も最高だ。下手くそと言われる彼女の絵がどんなに素晴しいかが分かる。 貸した評判は、もちろん上々だ。

 サイバラを読んで大笑いした後いつも思う、僕も、自分の発言を垂れ流しにすることはやめよう。全部手前でケツ拭こう。

.(2001.9.15) 

▼小学館HP ぼくんち解説 (インタビュー付)

http://www.bigcomics.shogakukan.co.jp/toshokan/title/hg/bokunti.html


file.7 さぁお祭りよ、ハレもケもない日々の祭りよ 

■スクリューボール・コメディ /ソウル・フラワー・ユニオン (リスペクト・レコード RES-52)

痛快だ! これしかない。 みんなこれだけ聴いていればいいんだほんとに。
(金そして心が余ってるやつは、買ってソウルフラワーの合間に他のものを聴くのもいいだろう。)
じじいばばあもガキもカナダ人もセルビア人もハウス好きもメタル好きも男も女もゲイも被災民も金持ちも社長もプー太郎もみんなこれ聴いてりゃいいんだ、こいつらはニューエスト時代からずーっと思考錯誤して築き上げてきた人類の大エンターテイメント・エデュケイショナル・ダンス・ミュージックをここでひとまず完全につくりあげちまった。どんともアケミもまだ歌ってるし声は聴こえる。な? こんなすげえもん、嘘でも大げさでも紛らわしくてもとにかく聴かせちまえば勝ちだよ。 
誰が? みんな、全員、全員みんな勝ち!

.(2001.8頃) ■メールマガジン「アマチュアアワー」2001年8月号より転載。

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